世界経済はハードランディングを避けられるのか?

世界経済はハードランディングを避けられるのか?

この記事のポイント
  • IMF(国際通貨基金:International Monetary Fund)の「世界経済見通し(2024年1月改定版)」で2024年の世界経済成長率が3.1%(0.2%の上方修正)に達すると予測されました。上方修正の要因は急速なインフレ率の低下で、①パンデミックから立ち直り、供給側の問題が解消したこと、②金利の引き上げのような引き締め的な金融政策が採られたことが原因です。この傾向は今後数年ほど続くと予測されており、世界の総合インフレ率は2023年の推計6.8%から2024年に5.8%へと鈍化する見込みとなっています
  • IMFは経済成長率を上方修正する一方で、紅海における攻撃が続くことなどの地政学的ショックや、供給の混乱によって一次産品価格が再度高騰したり、基調的なインフレが根強かったりすれば、金融政策の引き締めが長期化する可能性があること、中国における不動産部門の低迷の深刻化や、増税・歳出削減へ混乱を招くような転換が期待外れの成長をもたらしかねないことも指摘しています。
  • 2月4日にフーシ派のヤヒヤ・サリー報道官「米英軍が同組織の拠点に空爆を実施したことに対する反撃を行う」と表明したり、中国の上海総合指数が下げ止まらない現状を見ると、ここ数か月が分水嶺のよう思います。中東情勢や中国経済など、各方面のニュースに注意した方が良いでしょう。

IMFは2024年の経済成長率予測を0.2%上方修正

「世界経済の成長率予測 2024年1月改訂版」IMF資料より

「世界経済の成長率予測 2024年1月改訂版」IMF資料より(画像はすべてクリックすると拡大します)

IMF(国際通貨基金:International Monetary Fund)は1月30日に「世界経済見通し(2024年1月改定版)」を公表。新しい経済見通しでは2024年の世界経済成長率が3.1%に達すると予測されました。前回(2023年10月)の発表では世界経済成長率が2022年の3.5%から2023年は3.0%、2024年は2.9%へ鈍化する見込みとされていたことから、世界経済にとっては久しぶりの明るいニュースと言えそうです。

「2000年~2022年-世界のインフレ率および2028年までの見通し(前年比)」Statistaより

「2000年~2022年 世界のインフレ率および2028年までの見通し(前年比)」Statistaより(画像はすべてクリックすると拡大します)

IMFは経済成長率の上方修正の要因として急速なインフレ率の低下を指摘しています。実際、①パンデミックから立ち直り、供給側の問題が解消したこと、②金利の引き上げのような引き締め的な金融政策が採られたことから、世界のインフレ率は2022年をピークに下落しています。この傾向は目先も続くと考えられており、世界の総合インフレ率は2023年の推計6.8%から2024年に5.8%へ、2025年に4.4%へと鈍化する見込みとなっています(注:文中のインフレ率は2024年1月改定のデータに基づいていますが、上の画像はIMFのデータベースが更新されていない影響で2023年10月推計のデータが使用されています)。

この点について、FRB(米連邦準備理事会:Federal Reserve Board)のパウエル議長は2024年2月4日に放送されたインタビューで「経済は良い状態にあり、インフレは鈍化している。2%目標に向けて持続的に低下しているという確信をもう少し得たい」と語っています。直近の取材の中でパウエル議長が利下げに慎重な姿勢を示し、金利の高止まりが予想される以上、やはり今後もインフレ率は徐々に低下していきそうです。

依然として残るリスク

「原油先物(WTI価格)の週足チャート(2024年2月5日)」Trading Viewより

「原油先物(WTI価格)の週足チャート(2024年2月5日)」Trading Viewより(画像はすべてクリックすると拡大します)

IMFは経済成長率を上方修正する一方で、①2024年と2025年の予測が2000~2019年の歴史的平均である3.8%を下回っていること、②紅海における攻撃が続くことなどの地政学的ショックや、供給の混乱によって一次産品価格が再度高騰したり、基調的なインフレが根強かったりすれば、金融政策の引き締めが長期化する可能性があること、③中国における不動産部門の低迷の深刻化や、増税・歳出削減へ混乱を招くような転換が期待外れの成長をもたらしかねないことも指摘しています。

個人的な見解にすぎませんが、①の経済成長率の鈍化はロシアウ・クライナ戦争に伴う資源価格の高騰とそれに起因するインフレ(昨今のインフレ)が原因なので仕方ないものの、②紅海での戦闘(イエメンのフーシ派による民間船舶への攻撃と同組織壊滅に向けたアメリカ・イギリスの空爆)と③中国経済崩壊のリスクは少し危険だと感じています。

「中国上海総合指数の週足チャート(2024年2月5日時点)」TradingViewより

「中国上海総合指数の週足チャート(2024年2月5日時点)」TradingViewより(画像はすべてクリックすると拡大します)

今のところ、②中東情勢はある程度秩序だっており、協調減産の失敗と物価高による需要の低迷も手伝って、思いのほか原油価格は安定しています。加えて、③の中国経済に関しても、2023年12月に開催された中央経済工作会議で経済の安定を最重要とすることが決まっているので、すぐに何かが起こるわけではないとも考えています。

ただ、2月4日にフーシ派のヤヒヤ・サリー報道官「米英軍が同組織の拠点に空爆を実施したことに対する反撃を行う」と表明したり、中国の上海総合指数が下げ止まらない現状を見ると、ここ数か月が分水嶺のよう思います。中東情勢や中国経済など、各方面のニュースに気を配る必要がありそうです。

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