スーパートレーダーの失敗に学ぶ「マーケットの魔術師 大損失編」

「マーケットの魔術師-大損失編」

スーパートレーダーの失敗に学ぶ「マーケットの魔術師 大損失編」

この記事のポイント
  • 「マーケットの魔術師 大損失編」は著名な投資家がどんな失敗を犯し、それをどのように乗り越えたかについてインタビューした貴重な本となっています。株式投資において損失が発生することは日常茶飯事で、それをどう受け入れ、どう対処するかが一流か否かの分かれ目となります。失敗を減らし、失敗と上手く付き合うためにも、本書をぜひご一読ください!

「マーケットの魔術師 大損失編」の内容

トレードにおいて大損失を被ってしまうことは良くあることで、それはスーパートレーダーと呼ばれる超一流の投資家にとっても例外ではありません。「マーケットの魔術師 大損失編」はそんな有名投資家の失敗談についてのインタビューをまとめた本になります。

ラリー・ローゼンバーグ

「落ち込んだ時にはプレゼントを山ほど買い込みました。一種のセラピーでした。(略)」。「それによって全く新しい見方というか、損失の受け入れ方ができるようになると思いますね。つまり、損も生活の一部であって、怖気をふるうほどのものじゃないんだってね。(略)」。「仕事に戻った時は、ひたすら勝ちを収めるように努めます。どんなに小さな勝ちでもいいんです。損したのが2万ドルでも5万ドルでも気にしません。戻ったあと50ドル稼ぐようにするんです。その日がプラスになれば、やれるぞという気持ちに戻れるのです。」アート・コリンズ. マーケットの魔術師 大損失編 ──スーパートレーダーたちはいかにして危機を脱したか (Kindle の位置No.1179-1187).  Kindle版.

ラリー・ローゼンバーグはCBOT(シカゴ商品取引所)の会員として商品先物を手掛けており、ポークベリー(冷凍豚バラ先物)やライブキャトル(生体牛先物)といった畜産系の商品先物取引で莫大な利益を上げていました。ある時、不慣れな大豆先物契約で期近を買い建て、期先を売って(将来の価格下落にかけて)いましたが、取引相手の大手穀物会社が大量現物在庫を抱え込んでいたことで巨額の損失を被ってしまいます。

ポジションを清算して損失処理した彼は、なんと家族のためにプレゼントを買い込むことで心の傷を受け入れようとします。そして、仕事に戻った後の最初の取引では、それがどんなに小さな利益でも利益確定することを優先することで、負の連鎖を断ち切ろうとしたのでした。一連の対処でラリー・ローゼンバーグは落ち着きを取り戻し、この経験から彼は「市場を超えることなど誰にもできない」ことを痛感するとともに、「損失を自分という人間の問題として受け止めない」ようにする術を身につけたのでした。

チャーリー・ライト

1981年ごろ、サイクルの達人ウォルター・ブレサートの指導のおかげで、チャーリーは相場の底をつかむのにだんだん慣れてきていた。最初に手がけたトレードは珍妙な過ちの連続で、いくつもトレード上の失敗を犯しているのにもかかわらず、思いがけない利益が転がり込んできた。「その時点で私は気づいていなかったのですが、ブレサート流の方法では、サイクルの底をとらえたあとでなすべきことが山ほどあったのです」(第一の過ち――不完全な情報に基づく行動)チャーリーは綿花相場でサイクルの安値らしいものを見つけだし、6枚のポジションをとった。「すると価格がほぼ半セント値下がりしたので、さらに6枚買い付けました。その後さらに一セント下げたので、今度は12枚買い増しました」(第二の過ち――無分別の典型とされる手法、損したときに買い増す「ナンピン」)「市場が引けたあと、ブローカーから電話があって『統計発表の前だというのに、綿花のポジションを積み上げるなんて、何を考えているんだい』と言われました。『なんの統計?』と私は聞き返しました」(第三の過ち――もってのほか)「翌日、非常に好材料となる綿花の統計が発表されてストップ高となりました。確か4万ドルほど儲けました」「私はこう考えました。『何て簡単なんだ。ブレサートのチャートを使ってサイクルを見つける。そしてポジションを積み上げて発表を待てば、それで大儲けってわけだ』」(第四の過ち――ハイテクバブルのとき、ナスダック株が青天井で上昇して、すぐにでも引退資金が稼げると信じ込んだファンド投資家の再現)「次に私が目をつけた底は穀物でした。大豆とトウモロコシを買いました。それらが2セント下げたところで買い増しました。結局、トウモロコシも大豆も20枚ずつくらい買い付けましたが、損は広がるいっぽうでした」「綿花で稼いだ4万ドルはあっという間に消えてしまいました。相場はさらに下げ続け、私は『損失者特有の不安』にさいなまれるようになりました。無一文になりそうでした。自分ひとりではどうにもならないとやっと悟りました」アート・コリンズ.マーケットの魔術師大損失編──スーパートレーダーたちはいかにして危機を脱したか(Kindleの位置No.1269-1289)..Kindle版.

チャーリー・ライトはシステムトレードの祖とも呼べる投資家で、トレンドフォロー、支持線と抵抗線、ボラティリティという3つの要素を基に、機械的な売買を繰り返すこととで大きな利益を上げていました。しかし、そんな彼でも最初から完璧な売買システムを構築できていたわけではなく、まだ駆け出しのころに闇雲な投資で手痛い目にあっています。

彼が犯した過ちは無知・傲慢・無鉄砲という至ってシンプルなものでした。初期の成功体験から相場について十分な理解のないまま取引を繰り返し、偶然に得た利益にもかかわらず自分の実力を過信。市場のトレンドに逆らった取引を続けて資産の大半を失ってしまいました。チャーリー・ライトはこの失敗を糧に「セットアップとエントリー(仕掛ける前の条件や売買タイミングなど)」の要件を厳格に定める重要性を学びます。そして、それらを自身の投資システムと組み合わせることで、大きな飛躍を遂げるのでした。

「マーケットの魔術師 大損失編」のおすすめポイントとマイナスポイント

おすすめポイント

「マーケットの魔術師 大損失編」のおすすめポイントは、一流投資家が失敗する過程やその際の感情の起伏、大きな損失を被った後の考え方や対処方法など、思いがけない事態に陥った時の体験談について学べることにあります。

本書に取り上げられている投資家の全員が口にすることですが、損失は利益を生むための投資であり、避けられないものの一つです。失敗を成功に至るまでの過程として捉え、あらかじめその対応策を講じておくことで、どんな状況でも冷静にコントロールすることができるようになります。パニックに陥って損失を拡大させる愚を犯さないよう、ぜひ本書をご一読いただければと思います。

マイナスポイント

「マーケットの魔術師 大損失編」のマイナスポイントとして、チャートが掲載されていないこと(どういう環境下にあったのかが分かりにくいこと)、人物の掘り下げが甘いので各投資家の投資手法やその欠点が見えにくいことなどが指摘できます。本書は複数の投資家の失敗談をインタビュー形式で紹介しているので、一人当たりの紙幅にどうしても限界が生じます。仕方のないことかもしれませんが、リアルな物語を期待する人にとっては少し物足りない内容となっています。

「マーケットの魔術師 大損失編」のおすすめ度は☆4つ

「株の本のランキング」

「株の本のランキング」

「マーケットの魔術師 大損失編」のおすすめ度は☆4つ(投資家として読んだ方が良い本)です。

本書はインタビュー形式をとっているため、どうしてもその背景に関する説明が不十分なものになってしまいます。有名投資家の人物像や売買手法、どういう状況で苦境に陥ったのか等、詳細について知りたい方にとっては物足りなく感じてしまうかもしれません。ただ、著名な投資家がどんな失敗を犯し、それをどのように乗り越えたかが分かるとても貴重な本だと思います。

また、本書で紹介されている投資家のように損失を利益を獲得するための投資の一部と考えられれば、損切に伴って感じる精神的な負担も幾分か和らぐはずです。一流投資家の失敗談を学ぶことで同じ轍を踏まないようにするという意味で、損失を被った時の考え方・対処方法を学ぶことで実際の投資パフォーマンス改善に生かすという意味でも価値のある本となっています。他に類を見ない内容なので一読の価値は十分にあります。ぜひご一読ください。

「マーケットの魔術師 大損失編」の著者

「マーケットの魔術師 大損失編」の著者はアート・コリンズ(Art Collins)氏です。同氏はノースウェスタン大学卒業後、CBOT(シカゴ商品取引所)会員として商品先物市場で利益を上げる一方、ビジネスパートナーとともにシステムトレードの開発に20年以上も携わっています。本書のほかにも「マーケットの魔術師システムトレーダー編」(パンローリング)、「マーケット・ラップ――ジ・オーディシアス・オブ・ア・スティル・ストラグリング・コモディティ・トレーダー(マーケットの罪――今も苦闘する商品トレーダーの遍歴)」などを出版するなど、投資教育にも力を入れています。

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