「資本主義と戦うギャル②」という謎漫画 ~その2~

「資本主義と戦うギャル②」という謎漫画 ~その2~

この記事のポイント
  • 資本主義と戦うギャル②は特定の思想に凝り固まった謎の理論を展開することで、誤った思想を拡散しています。人の価値観は人それぞれであり、少なくとも間違った論拠をもとに否定されるものではありません。資本主義と戦う前に資本主義について勉強した方が良いと思います。

「資本主義と戦うギャル②」3/5~4/5 ~虚偽の事実で謎の理論を展開~

前回の記事に続いて、今回も「資本主義と戦うギャル②」をテーマに取り上げていきたいと思います。後半部分は思想的な内容がほとんどなのであまり反駁するところはありませんが、それでも事実と異なる点が多々見受けられます。以下で一つずつ見ていきたいと思います。

株式投資が行われている国の方が豊かである

漫画の3ページ目(3/5)では、主人公のギャルが「A国はみんなが働いてモノやサービスを生産している国(誰も投機をやっていない国)とB国は投機が流行って国民の半分が投機で暮らしている国、どちらの方が将来性があって発展できる国かしら?」と問いかけ、それに対してモブキャラが「それは当然A国だよ。だってB国の半数の国民は株券みたいな紙切れを交換しているだけで何にも生産していない」と答えています。そして、主人公のギャルは「その通り。だって国民の半数のみが食料・モノ・サービスを生産しているだけだもの」と話を進めています。

「一人当たりGDPと貧富の格差」ニッセイ基礎研究所-世界の貧富格差、その現状・特徴と経済成長との関係より

 

この一連の会話には明らかに嘘が含まれています。「株式投資は投機ではない」という点については前回も述べた通りなので割愛しますが、「株式投資が行われている国」と「行われていない国」を比較すると、上の画像を見ればわかるように「株式投資が行われている国」の方が一人当たりGDPが高くなって(豊かな生活を送れて)います。

そもそも、株式投資は効率的な資源配分を支える役割を担っています。将来有望な成長企業や優れた製品・サービスを提供する企業に資金が流れ(株価が高騰し)、そうした企業が新株を発行して資本を増強することで、さらなる発展を遂げていきます。一方、それが不十分な中国・ロシア・北朝鮮といった共産主義国(中国やロシアは部分的に資本主義を導入していますが…)では、効率的な資源配分が実現できず、企業の成長が阻害されてしまいます。したがって、基本的には株式投資が行われている国(投資を行える環境にある国)の方が豊かな生活を送ることができると思われます。

なお、漫画では生産力を人口だけでしか判断していませんが、機械化や集約化を図ることでも生産能力は変わっていきます。作者は革新的な製品やサービスを生み出すのを助ける市場の役割についてもう一度考え直すべきでしょう。

「資本主義と戦うギャル②」4/5~5/5 ~デマと偏見と価値観の押し売り~

「資本主義と戦うギャル②」の4/5~5/5部分は「デマと偏見と価値観の押し売り」であふれています。まるで北朝鮮のプロパガンダみたいなので、一つずつ検証していきたいと思います。

実態経済から金融経済にお金が流れてもモノづくりは衰退しない

漫画の4ページ目(4/5)では、主人公のギャルが「日本政府は今実体経済から金融経済にどんどんお金が流れさせてさらに投機を加速化させているのが現状よ。(中略)多くの人が金融市場人参入すればそれだけ株価や資産価格は上がってお金持ちは一層お金を稼げる。一方でモノやサービスを作る能力はどんどん衰退してしまうの。」と説明しています。しかし、これは明らかなデマです。

「主要取引所の株式時価総額と売買高の推移(2012~2022年)」野村資本市場研究所資料より

「主要取引所の株式時価総額と売買高の推移(2012~2022年)」野村資本市場研究所資料より

主要取引所の株式時価総額と売買高の推移をみると、アメリカ、中国、台湾などの国や地域で大きく金融市場にお金が流れ込んでいることが分かります。では、そうした国や地域でモノづくりの力は衰退したのでしょうか?例えば、アメリカのappleはiphoneやapple watchなどの革新的な製品を生み出していますし、microsoftはChatGPT4というAIを搭載したサービスを開発しています。また、中国のAlibaba Groupは世界最大の商業プロットフォームを運営し、台湾の台湾積体電路製造は最先端の半導体を製造しています。

漫画の作者は金融市場に資金が流れ込むとモノづくりの力が衰えると主張していますが、現実を見ればまったく逆の現象が起きています。そもそも、日本の製造業が衰退したのは急速な円高によって海外展開を余儀なくされ、(韓国などへの技術供与も含め)製造ノウハウが他国に流出したことが主因です。「実体経済から金融経済にお金が流れ込むとモノづくりが衰退する」と言いたいのなら、その理論的な背景や説得力のある根拠が必要でしょう。

バブルは防げないし、社会保障を充実させる手段として投資が求められている

バブルは防げない

漫画の4ページ目(4/5)では、主人公のギャルが「まずは投機バブルで儲けられるというシステムの欠陥を塞ぐことね。税制の見直しで金融市場でお金を稼ぎにくくするべきよ」と指摘していますが、税金を高くしてもバブルは防げないのでこの発言は明らかに誤りと言えます。

「バブルの歴史」wikipediaより

「バブルの歴史」wikipediaより

暗号資産(仮想通貨)バブルが良い例でしょう。株式投資で得た利益や配当金には基本的に所得税15%と、住民税5%、合わせて20%の税金(2037年12月末までは復興特別所得税が加わるので合計20.315%の税金)がかかります。

「所得税の計算方法・計算式」国税庁ホームページより

「所得税の計算方法・計算式」国税庁ホームページより

一方、暗号資産の取引で得た利益は基本的に雑所得として扱われるので、給与所得などの他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後で納める税額を計算することになります。その際の税率は所得金額(利益額)が大きくなればなるほど高くなり、仮に最高税率となる4,000万円の利益を得た場合は4,000万円×45%△4,796,000円=1320.4万円(株式投資で得た場合は4,000万円×20.315%=812.6万円)の所得税を支払わなければなりません。

暗号資産の税率は株式投資の税率よりも高くなる可能性がありますが、暗号資産バブルは現実に発生しています。したがって、税金を高くしてもバブルは防げないことは明らかでしょう。

そもそも、バブルとは人間の欲望が生み出すものです。1637年にオランダで起きたチューリップバブル(チューリップブームで球根の価格が上昇し、珍しい品種のものだと家が買えるほどの値段が付いた)のようにバブルの対象は株式に限りません。ことさら株式だけを敵視するのは単なる偏見だと思います。

社会保障の充実させる手段として投資が求められている

漫画の4ページ目(4/5)では、主人公のギャルが「金融市場に参加しなくても安心して暮らせるように国民の生活をしっかりと保障すること」が大切であると言い、「適正な賃金の確保、年金の充実、セーフティーネットの拡充」が重要であると説いています。この部分については基本的にはその通りだと思いますが、「年金の充実」という点に関しては疑問を感じます。というのも、年金制度の充実のために金融投資が必要とされているからです。

「社会保障費の推移とその財源構成」厚生労働省ホームページより

「社会保障費の推移とその財源構成」厚生労働省ホームページより

日本は少子高齢化が進んでおり、社会保障費が大きく膨らんでいます。そして、その財源の41.3%を公費(実質的には国債発行)によって賄っているため、将来的な負担はますます重くなっていくと予想されます。

「2022年度の年金資産の運用状況」年金積立金管理運用独立行政法人ホームページより

「2022年度の年金資産の運用状況」年金積立金管理運用独立行政法人ホームページより

これを回避するには増税して国民負担率を引き上げるか、その他の手段によって歳入を得るしか道はなく、その解決策の一つが「金融投資」とされています。現在、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が年金資産を運用しており、市場運用開始以降 (2001年度~2022年度第3四半期)の累積収益額は年率+3.38%の+98兆1,036億円となっています。

漫画の作者は年金制度の充実を謳っていますが、そうすると社会構造上当然に金融投資の必要性が理解できるはずです。金融投資は悪であると決めつけてその重要性を無視しつつ、一方で社会保障の充実を訴えるのはあまりにも都合が良すぎます。社会保障を充実させるための財源をどうするか、少子高齢化という社会構造をどう変革していくか、議論の根幹に触れずに自己の主張だけを声高に叫ぶのはあまりにも偏っていると思います。

結局、「資本主義と戦うギャル」という漫画は謎の理論を展開して価値観を押し付けているだけ

漫画の5ページ目(5/5)では、主人公のギャルが金持ちになりたいというモブキャラに対して「つまんない男」と吐き捨てています。結局、これこそがこの漫画の本質なのだと痛感させられます。

人の価値観は人それぞれであり、その一つ一つが多様性として尊重されるべきものです。しかし、この漫画の作者のように訳のわからない主張をする人たちは自分に都合の良い部分だけを切り抜き、誤った主義・主張で他者の価値観を否定します。少なくとも正しい論拠に基づいて主張がされていればまだ理解できますが、デマや偏見に基づいた根拠で一方的に人の価値観を打ち負かそうとする姿勢にはどうしても賛同できません。資本主義と戦う前に資本主義を学んだ方が良いと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA