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興味深いが説明が表面的過ぎる本「アルゴリズム取引の正体」
- 「アルゴリズム取引の正体」は金融市場系業務の構築・開発を手掛けるNTTデータ・フィナンシャル・ソリューションズ(現:NTTデータルウィーブ)が執筆した本です。アルゴリズムの全体像を分かりやすく解説しているものの、基礎的な記述にとどまっている点が少し残念です。時間のある人が自身の教養を深めるために読む本でしょう。
「アルゴリズム取引の正体」の内容
「アルゴリズム取引の正体」は金融市場系業務の構築・開発を手掛けるNTTデータ・フィナンシャル・ソリューションズ(現:NTTデータルウィーブ)が執筆した本です。アルゴリズム取引とは、コンピューターが自動的に、売買銘柄、売買数量、売買タイミング、売買市場等を決定し、金融商品の注文を行う取引のことであり、必ずしも複雑なプログラムや高度な手法が用いられるわけではありません。本書ではこうした前提を踏まえ、成行注文や指値注文といった株式の注文方法から証券取引所の売買制度に至るまで、基礎的な事柄も余すところなく説明しています。
また、メインテーマとなっているアルゴリズム取引に関しても、その戦略目標を①執行アルゴリズム、②ベンチマーク執行アルゴリズム、③マーケット・メイキング・アルゴリズム、④裁定アルゴリズム、⑤ディレクショナル・アルゴリズム、⑥市場操作系アルゴリズムの6つに分類したうえで、それぞれのアルゴリズム取引の代表例を取り上げています。ここでは、市場操作系アルゴリズム(投資家の判断を誤らせるためのアルゴリズム)に属する「スプーフィング」というアルゴリズムをどのように解説しているか紹介したいと思います。
スプーフィングとは、複数の価格に大量の注文を出し、他の投資家の市場流動性の予測や需要の予測を誤認させる戦略である。これにより、実行者の意図した方向にマーケットを動かすと同時に、ほしい方向の流動性を呼び込むことを期待する。そのため、売買収益の獲得や、大量執行の取引コストの削減にも利用できる。スプーフィングはレイヤリング(補足:レイヤリングとは複数価格に指値注文を入れるアルゴリズムのこと)と同様に複数の価格に多数の注文を並べる戦略である。レイヤリングとの違いは、スプーフィングは他の投資家の市場流動性の予測や需要の予測を誤認させることを目的としており、売買の意思はないのに対し、レイヤリングは、板の先頭争いなどを目的としており、売買の意思はあるという点である。 NTTデータ・フィナンシャル・ソリューションズ先端金融工学センター.アルゴリズム取引の正体(Kindleの位置No.2446-2454)
上記の引用にもあるように、スプーフィングとは「複数の価格に大量の注文を出し、他の投資家の市場流動性の予測や需要の予測を誤認させる戦略」を採用したアルゴリズムのことで、普段から板を監視している人にとってはお馴染みのプログラムになります。
このアルゴリズムは上記の例のように、買い集める場合には大量の売り指値注文を入れて売りを誘い、売り払う場合には大量の買い指値注文を入れて買いを誘う仕組みとなっており、他の市場参加者に相場環境を誤認させることで、自己に有利な状況をつくり出します。
約定する意図のない注文を繰り返すことは「見せ板」と呼ばれ、本来は禁止されている行為ですが、近年は高速高頻度取引(HFT:High Frequency Trading)が一般的になっていることもあり、正当な注文と見分けがつきにくく、規制当局も摘発するのが困難になっています。
このように、「アルゴリズム取引の正体」では単なるアルゴリズムの解説にとどまらず、スプーフィングのようなグレーゾーンのアルゴリズムも含む多様な取引戦略まで網羅的に紹介しています。多少説明が表面的すぎるきらいはありますが、時間がある人は読んだ方が良いかもしれません。
「アルゴリズムの正体」のおすすめポイントとマイナスポイント
おすすめポイント
「アルゴリズム取引の正体」のおすすめポイントは、違法・グレーゾーンのものも含めた多種多様なアルゴリズムを幅広く紹介している点にあります。言葉による説明だけでなく、アルゴリズムが稼働している時の板の変遷も併せて図示しているので、初心者の方でも理解しやすくなっています。
マイナスポイント
「アルゴリズム取引の正体」のマイナスポイントは、説明が表面的過ぎる点にあります。本書ではアルゴリズムの挙動を最低限説明してはいるものの、アルゴリズムを仕掛ける側の意図や背景には何も触れられていません。機関投資家が自らの手の内を晒すことがないので仕方のない面もありますが、実際のチャート・歩み値・板情報などを用いてアルゴリズムの動きを詳細に説明していれば、もっと価値ある本になったと思います。この本を読んでも基礎的な知識を得られるだけで、すぐに投資の役に立つことはなさそうです。
「アルゴリズム取引の正体」のおすすめ度は☆3つ
「アルゴリズム取引の正体」のおすすめ度は☆3つ(時間がある人が読む本)です。
本書は取引の主流となっているアルゴリズムの挙動を解説した本ですが、記述が教科書的で実用には向きません。時間に余裕のある人が自身の知識を広げるために読むべき本でしょう。
「アルゴリズム取引の正体」の著者
「アルゴリズム取引の正体」の著者はNTTデータ・フィナンシャル・ソリューションズ(現:NTTデータルウィーブ)です。同社は金融市場系業務の構築・開発を手掛けるシステム開発会社で、様々な金融機関にサービスを提供しています。