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「資本主義と戦うギャル②」という謎漫画 ~その1~
- 資本主義と戦うギャル②は特定の思想に凝り固まった謎の理論を展開することで、誤った思想を拡散しています。
- 例えば、作中では株取引はチケット転売と同じ投機に過ぎないと断じていますが、①「投機目的の売買が市場を効率的にし、企業の資金調達を手助けしていること」、②「株式は企業が利益を計上することで自身の価値を増加させていくのに対し、チケットは本質的な価値が変化せず、買い占め・転売することで他社の利益を奪っているだけであること」という2点で異なっています。
- また、作者は株式発行による資金調達額と売買高を比べていますが、そもそも両者は全く違う役割を果たしているので、比較の対象にすべきではないでしょう。
出だしからイデオロギーがすごい!
前回の記事でも取り上げましたが、「資本主義と戦うギャル」という漫画がtwitterやブログで公開されています。あまりにも特定の方向に偏りすぎていて(無茶苦茶で)面白いので、今回もこの漫画の続編「資本主義と戦うギャル②」を記事にしたいと思います。
「資本主義と戦うギャル②」1/5~2/5
資本主義と戦うギャル②(2/5)#漫画が読めるハッシュタグ pic.twitter.com/MOSkFAFPde
— mihana@ヤンキー経世済民漫画 (@mihana07) March 4, 2023
漫画を読み進んでいくと、出だしからイデオロギー全開のすさまじい論理が展開されていることが分かります。
資本市場の役割を説明するモブキャラに対し、主人公のギャルは「株に『投資』したお金っていうのは本当に企業の資金になっているのかしら?」と疑問を投げかけ、日本株の売買高は約744兆円に対して企業が株を発行して新しく資金を調達した額は2兆円に満たないため、そのほとんどが投機目的の取引であると指摘。そして、株の取引はチケット転売のようなものであり、「企業が新しく株を発行した際、最初に購入した人のお金はその人のお金はその企業の資金になるけど、それ以外の取引は全部株を転売する人の儲けになるだけ」と主張しています。
漫画の著者は投機目的による株の売買を全否定していますが、まったくもって意味が分かりません。多くの投資家が利用可能な情報を用いて取引をすれば、市場は効率的に機能し、株価は本質的な価値に収束することになります。また、新たに証券取引所に株式を上場した企業は確かに当初は新規公開時にしか資金を得られませんが、「増資」を行うことでいつでも市場から資金調達することができます。つまり、様々な投資家が投機目的の売買を積み重ねることで、株価が適切な水準に維持され、企業はいつでも正当な評価に基づいて増資(資金調達)ができるということになります。
資本市場の役割について ~テスラの事例~
具体的な例として、EV(電気自動車)で有名なテスラの事例をみてみましょう。同社は2010年の上場から2019年までの10年もの間ずっと赤字を垂れ流し続けていました。その額は累計で6,536,074千ドル(1ドル=130円換算で8,496億8,962万円)に及びます。なぜテスラはこれほどの赤字を計上しながらも存続することができたのでしょうか?それはテスラの将来性を信じた投機目的の投資家が割高な(将来価値から考えれば割安な)株価を許容し、それによて同社は有利な条件で増資(資金調達)することができたためです。
同社の株価は脱炭素社会の実現に向けた成長期待から高騰を続けており、その時価総額(株価×発行済株式数)は2023年4月5日時点で6034.44億ドル(1ドル130円で約78兆4,477億円)に達しています。テスラの売上高(2022年12月期)はわずか815億ドル(約10兆5,950億円)に過ぎませんが、売上高31兆3,795億円(2022年3月期)を誇るトヨタの時価総額(30.23兆円)をはるかに上回っており、投資家からトヨタ以上に将来を期待されていることが分かります。
こうした市場からの高い評価をもとに、テスラは有利な条件*で新株発行を繰り返しています。2020年には3回・合計100億ドル以上の増資を実施し、獲得した資金を新工場の建設や生産設備の増設に充てることで、2020年から2022年にかけて売上高は2倍以上に膨れ上がっています。*株価が高騰しているので、少ない株数で多くの資金を調達できる。
多くの市場参加者は値上がり益目的で株を購入しただけかもしれませんが、それによって適切な株価(企業価値評価)が維持され、その恩恵を受けたテスラは世界的な企業へと躍進を遂げました。資本主義と戦うギャルの著者は資本主義的な側面をとかく批判したがっているようですが、あまりにも論点が見当違いだと思います。
株式売買とチケット転売の違いについて
「資本主義と戦うギャル」の著者は株式売買とチケット転売を同一視しているようですが、両社はまったく異なります。具体的に言えば、株式がそれ自体の価値が増加していく「投資」であるのに対し、チケット転売は一定の価値を奪い合う単なる「投機」に過ぎません。
そもそも、株式とは株式会社が資金を出資してもらった人に対して発行する証券のことで、会社に対する持分(保有割合に応じた所有権)のことです。したがって、企業が事業活動を通して利益を計上することで、自然とその価値を高めていきます。直近のデータでは東証市場に上場する企業のうち86.6%が黒字となっているため*、まともな企業の株を一定期間保有していれば本質的な価値が増加する(儲けを生む)可能性は高くなります。つまり、株式取引は長期的に見れば勝率が高い「投資」であり、1日単位で売買を繰り返すデイトレーダーのような投資家を除けば「投機」にはあたりません。*2023年3月25日時点のデータ
上のグラフをみればそれは明らかです。投資期間が15年を超えると平均的に損失を被る可能性はなくなり、利益を生む可能性が高くなっていることが分かります。「資本主義と戦うギャル②」では株式取引のほぼすべてがさも投機目的であるかのように描かれていますが、実際には長期「投資」の売買高も含まれています。
他方、チケット転売は「販売枚数に限りのあるチケットを買い占めることで需給バランスを壊し、価格を吊り上げて利益を得ようとする行為」であり、転売を通して席がグレードアップするわけでも、何か別の特典が付くわけでもありません。本質的な価値が変わらないものを高値で売り抜けようとしているだけであり、本来であれば安価な価格で手に入れられた人たちの経済的利益を強奪する「投機」にほかなりません。著者の主張にはかなりの無理があります。
~続く~
【株式投資の投資期間とリターンの関係性についてのグラフは下の本から引用しています。勉強になるので是非ご一読ください!】