「資本主義と戦うギャル」という謎漫画

「資本主義と戦うギャル」という謎漫画

「資本主義と戦うギャル」という謎漫画

この記事のポイント
  • 資本主義と戦うギャルでは謎の理論が展開され、資本主義が全否定されています。しかし、現実には資本主義国の方が豊かであり、株主還元に力を入れる国の方が理論的には格差が小さくなります。
  • また、「人件費や設備投資を抑制することで配当金を捻出している」という主張は適切ではありません。配当金が増えたのは「金利の低下や海外子会社の利益によって経常利益が増えたこと」、「法人税の税率が引き下げられたこと」が原因です。
  • なお、企業が設備投資や人への投資に踏み切れなかったのは、少子高齢化と長期にわたって円高基調が続いてきたことが原因です。

資本主義を謎の理論で全否定しようとする漫画を見つけました

twitterを見ていたら、資本主義を謎の理論で全否定しようとする漫画を見つけました。あまりにも荒唐無稽な内容だったので、今回はこの漫画を題材に取り上げようと思います。

漫画の要旨は?

「資本主義と戦うギャルに掲載されているグラフ」立憲民主党落合貴之氏のホームページより

「資本主義と戦うギャルに掲載されているグラフ」立憲民主党落合貴之氏のホームページより

話の流れは次のように進んでいきます。まず、先生が「株式投資を行う→調達した資金で事業を拡大させ、企業が利益を上げる→企業が稼いだ利益を配当といて株主に還元することで、企業と株主双方がwin-winの関係を築く」と株式市場の役割を説明。

するとギャルが「配当の原資はどこからくるのか?」と先生に詰問。先生が「優秀な企業が調達した資金で良いものやサービスを生み出し、売上を増やすことで配当の原資を捻出しています」と答えると、ギャルは「『利益=売上△経費(人件費、設備投資、研究開発費)△法人税等の税金』と計算でき、企業は人件費や設備投資費を削減することで配当金を捻出しているだけだ」と追及。

そして、上のグラフを示しながら「この20年間あまり、従業員の給与はずっと横ばいなのに配当金は5倍に増えている」と持論を展開。「『配当を増やせ』という株主の圧力に屈し、企業は人件費や研究開発費を削減。長期投資が十分にできないことで技術革新が停滞し、結果として株式市場にいくらお金が回っても社会全体が悪い方向に向かう」と畳みかけます。

謎理論に屈した先生は最後に「これからの日本は経済成長は見込めない。経済的に自立する術を身に着けて欲しい」と訴えますが、ギャルは「国民にとって望ましい社会とは何かを教えるのが学校の本質であり、株式市場にだけお金が流れて一生懸命働いている人たちが報われない社会を変えたい」と言い放ち、株主資本主義を否定することで他の生徒たちから支持を集め、幕を閉じます。

表面的にはそれっぽい事を言っていますが、議論はだいぶ杜撰です。次の章ではこの漫画のおかしな点を掘り下げていきたいと思います。

この漫画にはおかしな点がいっぱい!

そもそも資本主義国の方が絶対的に豊かな社会を実現できている

「2021年GDPランキング」世界経済のネタ帳より

「2021年GDPランキング」世界経済のネタ帳より

「資本主義と戦うギャル」では株主資本主義を否定していますが、そもそも論として資本主義を採用する国の方が豊かです。それは2021年のGDPランキング(上の画像)をみれば一目瞭然で、中国を除いたすべての国が資本主義を採用しています。

また、中国は今でこそ「特色ある社会主義」を標榜して社会主義へ回帰する動きを見せていますが、1978年の中国共産党第11期中央委員会第三回全体会議(第11期三中全会)以降、改革開放(部分的な資本主義の導入)路線を堅持しています。つい最近(2021年9月)も北京証券取引所を開設しているので、資本主義から完全に脱却することはなさそうです。

このように、基本的に世界のほとんどの国が資本主義を受け入れ、市場メカニズムに身を委ねることで経済成長を図っています。純粋な社会主義国家としては北朝鮮くらいしか残っていませんが、知りうる限りにおいては北朝鮮が豊かであるとは到底思えません。資本主義の方が「絶対的に」豊かになれると断言できます。

格差(相対的な豊かさ)は許容範囲内だし、株主資本主義を採用しない(配当を出さない)と格差は拡大する

「OECD主要国のジニ係数の推移」平成29年版厚生労働白書

「OECD主要国のジニ係数の推移」平成29年版厚生労働白書

格差を図る指標の一つにジニ係数というものがあります。ジニ係数は1912年にイタリアの統計学者コッラド・ジニによって考案された社会における所得の不平等さを測る指標で、所得が均一で格差が全くない状態(0)から、一人の人物が全ての所得を独占している状態(1)までの値をとります。

一般的には0.4以上の値をとると経済的格差を理由に社会騒乱が多発すると考えられており、ジニ係数が0~0.4までの値となるよう所得の再分配(高額所得者から徴収した税金を低所得者に分配すること)が行われています。

話が長くなったので本題に戻りますが、日本のジニ係数の推移は上の画像のようになっています。表を見る限りにおいては日本のジニ係数は諸外国に比べて少し高いものの、0.4を下回っており許容の範囲内であることが分かります。

「株主還元水準の国際比較」ROE-向上のための株主還元より

「株主還元水準の国際比較」ROE-向上のための株主還元より

なお、「資本主義と戦うギャル」では株主資本主義が採用されて配当が増えると格差が拡大するとされていますが、日本は欧州や米国に比べて株主還元(配当額や自社株買いの金額)の割合が小さいにもかかわらず、格差が大きくなっています。

一般的に、富裕層の多くは起業家(ソフトバンク創業者の孫正義氏や楽天創業者の三木谷浩史氏など)であり、自身が経営する会社の株式を保有しています。株主還元に力を入れない(配当を出さない)と会社の保有資産がどんどん増えていくため、結果として富裕層の資産額も膨れ上がっていきます。

株主資本主義が採用されると格差が拡大するのではなく、株主資本主義がされないことで格差が拡大したのではないでしょうか?

配当が増えた要因は経常利益の増加と法人税の減税にある

「資本主義と戦うギャルに掲載されているグラフ」立憲民主党落合貴之氏のホームページより

再掲:「資本主義と戦うギャルに掲載されているグラフ」立憲民主党落合貴之氏のホームページより

これまで「資本主義を採用した方が絶対的に豊かになれる」、「格差(相対的な豊かさ)は許容範囲内だし、株主資本主義を採用しないと格差が拡大する」という点に触れましたが、ここでは「配当の原資がどこからもたらされているのか?」ということについて明らかにしていきたいと思います。

結論から先に言えば、配当が増えた要因は経常利益の増加と法人税の減税にあると考えています。漫画では「人件費・設備投資費・研究開発費を削減することで配当金を捻出している」と表現されていますが、上の画像をみれる限り人件費96(1997年度=100)や設備投資96の減少幅はごくわずかであり、売上高107の増加を考慮しても配当620の増加分を賄えるとは思えません。

「法人税率の推移」財務省ホームページより

「法人税率の推移」財務省ホームページより

一方、金利の低下による支払利息の減少や海外子会社の利益(持分法による投資損益等)により、経常利益は1997年度の3.19倍に膨らんでいます。加えて、1997年に37.5%だった法人税率は2018年以降23.2%まで引き下げられており、税引後純利益は単純計算で1.2倍に増えています。

非正雇用を増やしたり、設備投資を抑制することで利益を増やしたのは事実ですが、経常利益の増加や法人税の減税の方が与えた影響は大きくなっています。

設備投資や人件費を増やせと言うけれど…

「日本の人口の推移」厚生労働省ホームページより

「日本の人口の推移」厚生労働省ホームページより

最後に企業が設備投資や人件費を抑制してきた背景について触れていきたいと思います。企業が投資を躊躇ってきた原因は少子高齢化にあります。

現在、日本は人口減少局面を迎えており、2060年には総人口が9,000万人を割り込と予想されています。同時期には高齢化率も40%に達すると推定されているので、あらゆるものの需要が減少するのは避けられません。投資は利益が期待できるから実施するであって、成長が見込めない中で無理に投資しても赤字が増えるばかりです。

「ドル円の長期チャート」google.comより

「ドル円の長期チャート」google.comより

また、長期にわたって円高が進行してきたことも企業が投資に踏み切れなかった理由の一つです。日本は1971年のニクソン・ショック後の1973年から変動相場制度へ移行しています。1ドル=360円から2011年10月末には1ドル=75円に達するなど急速に円高が進行したため、海外に生産拠点を移転する動きが活発化。国内での投資を控え、海外での投資を増やす結果となりました。

MEMO
1万円の商品を輸出する場合、為替相場が1ドル=200円なら50ドルで販売できます。一方、円高が進んで1ドル=100円になると、同じ商品を100ドルで販売しなければなりません。円高は輸出企業にとって不利に働くので、為替相場の影響を受けないよう輸出先で直接商品を生産しようとする動きが生まれます。

なお、2013年のアベノミクス以後、円安基調が続いています。これが続けば、生産拠点が国内に回帰し、設備投資が活発になるかもしれません。

まとめ

以上のように、「資本主義と戦うギャル」という謎漫画にはおかしな点がたくさんあります。共産党やれいわ新撰組のような政党が存在している事実に比べれば驚きはありませんが、冷静に物事を把握し、世界を適切に捉えられるよう研鑽に務める必要があるでしょう。

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