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共同富裕とロックダウンで中国の株価は大暴落。日経平均も要注意!
- 中国では共同富裕の名のもとに「不法所得の取り締まりと共同富裕の障害となる産業に対する規制の強化」が推進され、とりわけ不動産開発、学習支援、ITの3つの産業が規制強化の餌食となりました。
- 不動産開発会社の恒大集団は融資規制による資金繰り難で倒産の危機に瀕し、教育大手の巨人教育は学習塾非営利化という強権的な政策にあらがえずあっけなく倒産、アリババは優越的地位の乱用を理由に巨額の罰金を科せられて株価が大きく下落しました。
- これに加えて、中国のGDPの3.8%を占める上海ではロックダウンが続いており、経済活動を圧迫しています。前回の記事でも触れたように、中国経済は22年3月に入ってから急激に悪化しています。規制強化の動きやロックダウンが深刻化すれば、さらなる景気悪化は避けられません。
- 中国の株価指数は既に下降トレンドに入っています。日経平均も短期的な下降トレンドに突入しているので注意が必要です!
共同富裕政策の推進で企業倒産やデフォルト(債務不履行)が相次ぐ
共同富裕とは?
「共同富裕」とは、1953年に毛沢東が提唱したスローガンのことで、「格差を縮小して社会全体で豊かさを共有しよう」という中国の目指す社会主義的な理想像を指しています。習近平政権が掲げた第14次5ヵ年計画(2021年~25年までの行動計画)でこの言葉が繰り返し使われたため、再び注目を浴びるようになりました。
この政策の中では「不法所得の取り締まりと共同富裕の障害となる産業に対する規制の強化」が掲げられており、「不動産市場の健全な発展と金融システムの安定を維持する」、「教育の平等化、公的な教育を充実させる」、「独占と不公正な競争を制限する」という理由から、とりわけ不動産開発、学習支援、ITの3つの産業が標的とされました。
共同富裕政策の推進で企業の倒産やデフォルトが相次ぐ
習近平政権が共同富裕を掲げて、不動産開発、学習支援、ITの3つの産業に対する締め付けを強化したことで、企業倒産やデフォルト(債務不履行)が相次いでいます。
例えば、不動産市場の健全な発展と金融システムの安定を維持するために不動産開発会社へ「三条紅線」という融資制限を科した結果、恒大集団をはじめとする多くの会社が倒産の危機に瀕しています。
また、教育の平等化を実現するために学習塾の非営利化を進めた結果、巨人教育などの大手教育会社が破綻。さらには、独占と不公正な競争を制限するために規制を強めた結果、アリババなどの大手IT企業の株価が軒並み下落しています。
現在、かろうじて生き残っている企業も資金繰りが厳しくなっており、今後も倒産ラッシュが続きそうです。そうなれば失業者数はさらに増え、景気悪化は避けられないでしょう。
【中国で実施された規制強化の一部】
規制の名称・略称 | 主な規制内容 | 規制の影響 |
不動産開発会社に対する融資規制「三条紅線」 |
・不動産開発業者の財務内容に対して3つの規制(不動産会社の負債は資産の70%を超えてはならない、純負債は資本を超えてはならない、現金は少なくとも短期借入金と同等の比率でなければならない)を導入。 ・各社の財務状況(規制の順守状況)に応じて融資額の制限を行う。 |
複数の不動産開発会社がデフォルト(債務不履行)に陥る。具体的には、華夏幸福基業、四川藍光発展、花様年、協信遠創実業(倒産)、新力控股、陽光100中国、中国恒大集団、世茂集団、正栄地産、中国奥園など |
学習塾の非営利化を求める規制「双減政策」 | 学生への過度な負担、教育費の負担、保護者の負担を解消するために、「宿題負担の軽減」と「学習塾の削減」を実施。 | 巨人教育、華爾街英語、上海啓文教育などの大手教育会社が次々倒産。米国の株式市場に上場している新東方教育科技、好未来教育なども株価が大きく下落。 |
市場における支配的地位の濫用を防ぐための規制「プラットフォーム経済分野における独占禁止ガイドライン(关于平台经济领域的反垄断指南)」 | ・不公平な価格行為、廉価販売、取引の拒絶、取引の制限などの支配的地位を濫用した行為の禁止。(例)競合他社のシェアを奪う目的ために原価を下回る価格で販売を続ける等。
・市場支配的地位を有するプラットフォームが取引相手に対し自社又は競合プラットフォームのいずれか1つの選択を求める行為(いわゆる「二者択一行為」)の制限。(例)R社を利用するならA社やY社では販売するなといった契約条件を設ける行為等。 |
・2021年4月10日にアリババ(オンライン小売プラットフォームのシェア50%超)は、二者択一という独占的行為を行ったとして、182億2,800万元(約3,554億円)の罰金が科された。
・2021年10月8日には食品宅配最大手の美団に独占禁止法違反で約34億4,200万元(約671億円)の罰金が科さた。こうした規制強化の動きによって中国大手IT企業の株価は大きく下落。 |
ロックダウンで中国経済はさらなる苦境に立たされる
現在、中国ではオミクロン株の蔓延に伴って、中国各地で大規模な都市封鎖が行われています。その中心となっている上海では3月末からロックダウンが実施されており、約2500万人の住民全員に対してPCR検査が行われています。厳しい行動制限が徹底されてはいるものの、伊津部報道では累計感染者数が40万人を超えたとも伝えられており、収束の目途は立っていません。
上海は中国のGDPのおよそ3.8%(2021年時点)を占めており、経済への影響が懸念されています。また、都市封鎖によって発生した物流の混乱などの間接的な影響も考慮すれば、中国経済に大きな痛手となることは間違いありません。
前回の記事で触れましたが、2022年に入ってから中国経済は急激な落ち込みを見せています。規制強化による企業倒産と失業者の増加や、ロックダウンの影響が重しとなることから、今後の経済情勢に暗雲が立ち込めています。
中国の株価指数は景気後退を織り込み下降トレンドに…。日経平均も短期的な下降トレンドに突入。
中国の株価指数は景気後退を織り込み、下降トレンドに…
中国の株価指数を見ると、既に景気悪化を見越して株価が下落していることが分かります。上海総合指数は直近の安値を抜けきっていないのでまだ下降トレンドに入ったとは言えませんが、香港ハンセン株価指数は連日のように最安値を更新しており、明確な下降トレンドに突入しています。
日経平均も短期的な下降トレンドに突入。今後の動きに要注意!
日経平均も短期的な下降トレンドに突入しています。株価はここ数週間、激しく上下に触れながら21年9月14日につけた高値(3万0670円10銭)の起点(2万7000万円台)を割り込む動きを見せています。今後の中国の経済情勢次第では、株価の急落だけでなく、ボラティリティ(株価の振れ幅)がより一層大きくなる可能性があります。
保有株を整理したり、売買量を少し減らして余裕のあるトレードを心がけましょう。
参考資料
資料名 | リンク |
「第14次5カ年(2021~2025年)規画と2035年までの長期目標綱要に関する建議((受权发布)中共中央关于制定国民经济和社会发展第十四个五年规划和二〇三五年远景目标的建议)」 | http://www.xinhuanet.com/2020-11/03/c_1126693293.htm |
「第14次5カ年規画と2035年までの長期目標綱要(中华人民共和国国民经济和社会发展第十四个五年规划和2035年远景目标纲要)」 | http://www.gov.cn/xinwen/2021-03/13/content_5592681.htm |