UBSの空売り手法とは?|投資の知識

UBS AGの空売り手法とは?

UBSの空売り手法とは?|投資の知識

この記事のポイント
  • UBSは、スイスのチューリッヒに本拠を構える同国最大の金融機関です。2021年12月末の総資産は1兆1,171億ドル、投資資産は4兆5960億ドルを誇り、世界でも有数の金融グループを形成しています。
  • UBSの空売り手法はテクニカル分析よりもファンダメンタル分析を重視しています。そのため、成長力が鈍化してバリュエーションが割高になった銘柄や将来業績が期待できない銘柄であれば、株価が天井圏にあっても平気で空売りを仕掛けていきます。
  • もちろんテクニカル分析を無視しているわけではありません。UBSはメリルリンチやゴールドマン・サックスなどと比較すると売買頻度は低いですが、移動平均線にぶつかったり、株価が節目に近づくと、積極的に上値を抑えようとします。
  • UBSは豊富な資金量という強みを生かして巨大なポジションを作るので、同社が空売りする銘柄には手を出さないほうが良いでしょう。

UBSとは?

「UBS-AGのホームページ」

「UBSのホームページ」(画像はすべてクリックすると拡大します)

UBS(UBS AG 注:AGは10万フラン以上の資本金を持つ「株式会社」のこと)は、スイスのチューリッヒに本拠を構えるスイス最大の金融機関です。2021年12月末の総資産は1兆1,171億ドル(1ドル=125円換算で約139兆6,375億円)、投資資産は4,596十億ドル(約574兆5,000億円)となっており、世界でも有数の金融グループを形成しています。

「UBSの沿革」同社IR資料より

「UBSの沿革」同社IR資料より(画像はすべてクリックすると拡大します)

UBSの起源は1862年のウィンタートゥール銀行の設立まで遡ることができます。スイス北東部の都市の名前を冠した同行は、地域の発展とスイスの工業化に大きな貢献してきました。

その後、1912年に同行はスイス東部のザンクトガレン州トッゲンブルクにちなんで名づけられたトッゲンブルガー銀行と合併し、スイス・ユニオン銀行(Union Bank of Switzerland)が誕生。そして、1998年にスイス・ユニオン銀行はスイス銀行コーポレイション(Swiss Bank Corporation)と合併し、現在のUBS AGに社名変更されました。

UBSが空売りする銘柄の特徴は?

「2022年4月8日時点のUBSの空売り残高情報」東京証券取引所データより

「2022年4月8日時点のUBSの空売り残高情報」東京証券取引所データより(画像はすべてクリックすると拡大します)

UBSは直近で、小規模事業者向けECプラットフォーム「BASE」を運営するBASE(4477)、アサイーをはじめとしたアマゾンフルーツの輸入販売を手掛けるフルッタフルッタ(2586)、住宅ローンの貸し出し・取次業務を主力とするアルヒ(7198)等の銘柄を空売りしています。

これらの銘柄の共通点として、成長力が鈍化してバリュエーションが割高になっている or 不祥事の発覚や事業環境の変化で将来業績が不安視されているという特徴があります。

BASE(4477)・・・成長力が鈍化してバリュエーションが割高になっている

「BASE(4477)の5年週足チャートとUBSの空売りポイント」

「BASE(4477)の5年週足チャートとUBSの空売りポイント(なお、UBSはこの後も断続的に空売りを行っています)」マネックス証券より(画像はすべてクリックすると拡大します)

BASE(4477)の5年週足チャートをみると、UBSが株価の天井付近から空売りを仕掛けていることが分かります。機関投資家の多くはテクニカルの条件を重視し、下降トレンドに入っている銘柄だけを対象にするので、ファンダメンタルだけに着目するUBSの空売り手法はかなり特徴的な手法と言えるでしょう。

「BASE(4477)の通期業績と四半期業績の推移(赤枠部分はUBSが空売りを始めた直後に発表された四半期業績)」マネックス証券より

「BASE(4477)の通期業績と四半期業績の推移(赤枠部分はUBSが空売りを始めた直後に発表された四半期業績)」マネックス証券より(画像はすべてクリックすると拡大します)

UBSがBASEを空売りした理由は、同社の成長力が鈍化してバリュエーションが割高になったためだと考えられます。実際、空売りを始めた直後に開示された決算(画像赤枠の20年12月期第3四半期決算)をみると、黒字を計上しているものの、対前四半期で比較すると売上高と利益が減少していることが分かります。

「BASEのPBRの推移とUBSが空売りを開始したポイント」マネックス証券より

「BASEのPBRの推移とUBSが空売りを開始したポイント」マネックス証券より(画像はすべてクリックすると拡大します)

また、UBSが空売りを開始した時期のBASEのバリュエーションを見ると、PBRが80倍を超えて取引されており、かなりの割高感があったことが分かります。PSRも38倍程度あったので、対前四半期でマイナス成長の決算が出れば(成長力が鈍化すれば)、株価の下落は当然かもしれません。

以上のように、UBSがBASEを空売りした理由は成長力の鈍化が原因だっと考えられます。この事例を見れば明らかなように、同社はテクニカル面をほとんど考慮せず、ファンダメンタル分析だけで空売りを成功させています。UBSが空売りポジションを持っている銘柄は、将来業績が悪化する危険性があるので、注意したほうが良いかもしれません。

アルヒ(7198)・・・不祥事が発覚して将来業績が不安視されている

「アルヒ(7198)の5年週足チャートとUBSの空売りポイント」

「アルヒ(7198)の5年週足チャートとUBSの空売りポイント(なお、UBSはこの後も断続的に空売りを行っています)」マネックス証券より(画像はすべてクリックすると拡大します)

アルヒ(7198)の5年週足チャートを見ると、先程の例と同様にUBSは株価の天井圏から空売りを試みていることが分かります。

短期移動平均線(緑色の6日移動平均線)と中期移動平均線(黄色の25日移動平均線)がゴールデンクロスし、かつ、株価も短期移動平均線を上回っているので、テクニカル分析では絶対に空売りしてはいけない形です。

しかし、UBSはアルヒの発行済み株式数の0.8%~1.2%に相当する30万~40万株もの空売りを行い、多額の利益を手にしています。こうした豊富な資金を利用して株価を下落させる空売り手法は、UBSだけに見られる特徴的な方法です。

「アルヒ(7198)の業績推移」

「アルヒ(7198)の業績推移」マネックス証券より(画像はすべてクリックすると拡大します)

アルヒの業績の推移をみると、順調に業容が拡大していることが分かります。それにも関わらず株価が下落しているのは、同社の不祥事が発覚し、将来業績が不安視されているからです。

アルヒは「フラット35」と呼ばれる固定金利住宅ローンの貸付・回収(モーゲージバンク事業)を主力事業として展開しています。本来、「フラット35」は投資用不動産の購入には使用できませんが、同社は不動産の取得目的を自宅用と偽り、不正に住宅ローンを斡旋したのではないかと疑われています。

さらに、別の事件では融資の際に顧客の申請書類の一部(課税証明書や源泉徴収票など)を偽造することで、基準を満たさない顧客に対して不正融資を行ったのではないかという疑惑も取り沙汰されています。

「アプラスフィナンシャル(8589)2020年4月1日「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」より一部抜粋」

「アプラスフィナンシャル(8589)2020年4月1日「特別調査委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」より一部抜粋」(画像はすべてクリックすると拡大します)

アルヒはこうした疑惑に対して、「アルヒは融資の取次を担当するに過ぎず、書類の偽造等の不正行為は一部の不動産事業者が勝手にやったことである」とし、不正の一切を否定しています。

しかし、後者の不正融資に加担したとされるアプラスフィナンシャルの調査報告書を読むと、申込書類の偽造については特定の不動産事業者が関わった改ざん案件数よりも、特定のアルヒの担当者が関わった改ざん案件数の方が多くなっています。不動産事業者が主導したとは言いにくい状況でしょう。

この件がどこまで追及されるか、また、それが業績にどのような影響を与えるかは誰にも分かりませんが、少なくともアルヒに積極的に投資したいと思う投資家はいません。アルヒの株価低迷は仕方のないことでしょう。UBSはこうした将来業績に対する投資家の不安感とそれによる株価の下落を上手く利用し、積極的に空売りを行っています。

なお、アルヒの不正融資の多くは2018年までに実行され、2020年頃から問題視されています。UBSがこれをどの程度把握していたのかは分かりませんが、同社が2018年ごろからアルヒ株を大量かつ執拗に空売りしていることを踏まえると、事前に何らかの情報を掴んでいたのではないかと勘繰ってしまいます。事の真相は分かりませんが、UBSが空売りしている銘柄にはやはり手を出さない方が良さそうです。

UBSの直近の売り崩し事例

「アルヒ(7198)の2022年4月19日時点の6ヵ月日足チャートとUBSの空売りの動向(赤:空売り、青:買戻し)」

「アルヒ(7198)の2022年4月19日時点の6ヵ月日足チャートとUBSの空売りの動向(赤:空売り、青:買戻し)」(画像はすべてクリックすると拡大します)

上の画像はUBSによるアルヒ(7198)株の売り崩し事例です。

同社は2018年半ばの株価が最高値をつけていた頃から断続的に空売りを仕掛けており、かなりの含み益を抱えています。そのため、株価が大きく下落した(21年11月11日に発表された第2四半期決算で減収減益に陥ったことが発表され、失望売りから株価が大きく下落した)タイミングで部分的に利益確定し、ポジションを一部清算しています。

UBSが空売りを再開したのは、株価が戻りを試して75日移動平均線(オレンジ色の移動平均線)に初めてぶつかったタイミングです。その後は株価の動きを伺いながら、株価の節目(1000円)付近で大胆に売り増し、ポジションを約1.7倍近くまで膨らませています。

UBSの売買手口をみる限り、同社はメリルリンチやゴールドマン・サックスほどポジションを細かく回転させておらず、相場操縦につながる(下落相場を形成する)ような売買を行っていません。ただし、売買頻度は少なくても要所要所で大きく売り乗せてくるので、かなりやっかいな相手と言えるでしょう。現在、アルヒの株価は上場来最安値に迫りつつあります。UBSの売建値は現在の水準よりもはるかに高いので、今後も引き続き空売りを仕掛けてきそうです。

その他の主要な機関投資家の空売り手法については…

その他の機関投資家の空売り事例や空売りの手口(成功例や失敗例など)については、関連記事でまとめています。詳細については各記事をご確認ください!

主要な機関投資家の空売りの手法について

こちらの記事では、主要な機関投資家の空売り成功例と失敗例をまとめています。複数の機関投資家が空売りしている銘柄を例に取り上げているので、各投資家の投資手法の違いが良くわかると思います。

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個別の機関投資家の空売り事例について

クレディ・スイスの空売り手法について

こちらの記事では、クレディ・スイスの空売り手法についてまとめています。クレディ・スイスはUBSと同じくスイスに本拠を構える金融機関です。空売り手法もファンダメンタル分析に重点を置いている点でUBSと似通っています。

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ゴールドマン・サックスの空売り手法について

こちらの記事では、ゴールドマン・サックスの空売り手法についてまとめています。ゴールドマン・サックスはほぼ毎日のように細かく売買して売り崩しを図ります。UBSと対照的な空売り手法です。

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メリル・リンチの空売り手法について

こちらの記事では、メリル・リンチの空売り手法についてまとめています。メリル・リンチはゴールドマン・サックスと同じくほぼ毎日のように細かく売買して売り崩しを狙います。UBSと対照的な空売り手法です。

メリルリンチ・インターナショナルの空売り手法とは?|投資の知識メリルリンチ・インターナショナルの空売り手法とは?|投資の知識

機関投資家の空売り手法を学ぶには

機関投資家の空売り手法についてさらに知りたい方は、下の「オニールの空売り練習帖 (ウィリアム・J. オニール著) 」という本がおすすめです。

「ルーセント・テクノロジーズの2000年の日足チャート」オニールの空売り練習帖より.

「ルーセント・テクノロジーズの2000年の日足チャート」オニールの空売り練習帖より(画像はすべてクリックすると拡大します)

著者のウィリアム・J. オニール氏はコンピュータを黎明期から株式投資に利用し、巨万の富を築きました。同氏は「CAN-SLIM(キャンスリム)」という独自の投資手法を確立したことでも有名であり、Investor’s Daily(現在のInvestor’s Business Daily)という株式市場、金融・経済情報を扱うメディアを創業し、個人投資家のみならず機関投資家に対しても投資情報を提供しています。

キャリアの大半を株式ブローカー(仲買人)として過ごしてきたことも手伝ってか、彼の著書は投資初心者の方でも理解しやすい内容となっています。チャートも豊富に利用されているので、誰でも一目でその要旨を学ぶことができます。空売りについて学ぶには最良の本ですので、ぜひご一読ください!

まとめ

UBSは、スイスのチューリッヒに本拠を構えるスイス最大の金融機関です。同社の歴史は古く、いくつもの合併と買収を繰り返しながら、その規模を拡大させてきました。現在は、保有資産1兆ドル、投資資産4兆ドルをゆうに超える世界でも指折りの金融グループに成長しています。

同社の空売り手法は、ファンダメンタル分析が中心となっています。成長力が鈍化してバリュエーションが割高になった銘柄や将来業績が不安視される銘柄があれば、たとえ上場来最高値付近であっても積極的に空売りを仕掛けていきます。

もちろん、テクニカルの要素も売買に取り入れています。メリルリンチやゴールドマン・サックスに比べると売買頻度は低いですが、移動平均線にタッチしたり、株価が節目付近に達すると、大胆に売り乗せて上値を抑えようとしてきます。

UBSは豊富な資金を有する巨大な機関投資家です。かなり大きなポジションを作って売り崩してくるので、同社が空売りする銘柄には関わらないほうが良いでしょう。

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