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恒大集団は本当に利払いを行ったのか?
- 恒大集団は2021年6月末時点で1兆9665億元(1元=17円換算で約33兆4305億円)の負債を抱えています。そのうち、借入金が5717億元(約9兆7201億円)ほど残っており、その平均金利は9%に達しています。
- 恒大集団は経営危機がささやかれていますが、9月23日に8353万ドル(1ドル=110円換算で約91億8830万円)の利払いが、9月29日に4750万ドル(約52億2500万円)の利払いが迫っています。
- 9月20日の人民元建て社債の利払いを行ったと報道されましたが、一部メディアで「支払いの猶予で合意した」可能性があると報じられています。
- 9月23日の利払いに関しても、人民元建て債券の利払いは実施するものの、外貨建て債券の利払いに関しては今のところ会社側からの説明がありません。本当に利払いは行われたのでしょうか?
恒大集団は実質的に倒産
恒大集団は2021年6月末時点で1兆9665億元(1元=17円換算で約33兆4305億円)の負債を抱えています。そのうち、借入金が5717億元(約9兆7201億円)ほど残っており、その平均金利は9%に達しています。
今後1年以内に借入金2400億元(約4兆800億円)の返済が求められている一方、同社の資産の大半は換金の難しい不動産が占めており、手許現金はわずか867億元(約1兆4739億円)にすぎません。
現在、海外投資家向け債券の発行残高はおよそ192億ドル(約2兆1120億円)ほどあり、年内に6億6900万(約735億9000万円)ドルの利払いが求められています。直近では、9月23日に8353万ドル(1ドル=110円換算で約91億8830万円)の利払いが、9月29日に4750万ドル(約52億2500万円)の利払いが迫っています。
恒大集団は本当に利払いを行ったのか?
9月20日に国内向け社債の利払いについて、「利払いを実施する」との報道があったが…
(略)中国恒大の本土不動産部門、恒大地産集団は取引所への22日の届け出で、2025年償還債(表面利率5.8%)の利払いは「クリアリングハウス外での交渉を通じて解決された」と説明したが、支払いの具体的な時期や規模は示さなかった。この届け出によって、一部のアナリストの間では中国恒大が今回の動きをデフォルト(債務不履行)に分類する必要なく利払いを遅らせることで社債保有者と合意したのではないかとの観測が出ている。ブルームバール「中国恒大の人民元建て社債利払いの説明、曖昧で推測招く」2021年9月22日
以前より、9月20日に返済期日を迎える2億3200万元(約39億4400万円)の人民元建て社債の利払いが本当に実行されるのか、注目が集まっていました。この問題に関し、日本のメディアは恒大集団による利払いが実施されたと報道しています。
しかし、9月22日にブルームバーグが報じた上記ニュースによると、「恒大集団は実際には返済を行わずに債権者との協議で利払いを延期した可能性がある」と指摘されています。
同社の財務状態や理財商品の償還を巡って取り付け騒ぎが起こっている現状を考えれば、「利払いが実施された」のではなく、「支払いを猶予された」という見方のほうが正しそうです。
9月23日の利払いについて、「一部実施する」との報道があったが…
中国不動産大手の中国恒大集団は22日、期日が23日の人民元建て社債の一部の利払いを実施すると発表した。利息は2億3200万元(約39億円)。(略)利払いを実施するのは、深圳証券取引所で取引されている、発行額40億元の人民元建て社債。一方、同日に別途期限がくる米ドル建て社債の利払い8353万ドル(約91億円)については、依然として対応を明らかにしていない。朝日新聞「中国恒大、23日期日の社債利払いを一部実施へ」2021年9月22日
9月23日の利払いに関しても、日本のメディアは「一部利払いが実施された」と報じていますが、記事をよく読めば外貨建て債券に関して、会社側からの説明がないことが分かります。
先の9月20日の利払い同様、人民元建ての社債に関しては相手方と合意が成立したので、支払いが延期されたということなのかもしれません。いずれにしても、ドル建て債券の利払いができなければ海外投資家の耳目を集めることになるため、倒産が避けられません。
恒大集団の今後の動向には依然として注意が必要です。
海外投資家切り捨てか?
今現在起きていること
日本のメディアはあたかも恒大集団の経営危機が解消されたかのような報道を行っていますが、現実には何も変わっていません。むしろ、人民元建て債券の利払いを先延ばしにしていることから、同社の窮状が目に浮かびます。
9月23日以降、年内までに6億6900万(約735億9000万円)ドルという巨額の外貨建て債券の利払いが求められます。この海外投資家向け債券の利払いに失敗すれば、恒大集団の経営危機が国内外に広く伝わることになります。そうなれば、もう隠しきることができません。
ワシントンポストの論説で…
ワシントンポストの「Evergrande Isn’t HNA. It Might Be Worse.」という論説で、中国恒大集団(China Evergrande Group)の主要な子会社である恒大地産集団(Hengda Real Estate Group Company Limited)が、親会社の債務を負わない可能性があると指摘されています*。
*この記事はコラムニストShuli Ren氏の個人的な見解であるとの但し書きがあります。
日本やアメリカをはじめとする資本主義国家では、親会社が倒産した場合、資本関係のある子会社株をはじめ、その会社が保有するすべての資産が差し押さえられます。したがって、通常であれば親会社の持分に応じて、子会社が保有する資産も債権回収の対象となります。
しかし、中国の場合はたとえ株式を所有していなくても、会社の印鑑を所持している法定代理人が支配権を持っています。最近、恒大集団の創業者でCEOでもある許家印は、恒大地産集団のCEOの職を趙長龍に譲っていることから、恒大地産集団が恒大集団の債務を負わないのではという懸念が強まっています。
この論説にはさすがに無理がありますが、アームチャイナの件を思えばあり得ないとも言い切れません。9月23日の人民元建て社債の利払いを行うのは子会社の恒大地産集団であり、恒大集団ではないことを考えれば、なおのこと嫌な予感がします。99%起こらないと思いますが、注意喚起のために記事にしてみました。
関連ニュース
配信社 | ニュース | 配信日 |
ブルームバーグ | 「中国恒大の人民元建て社債利払いの説明、曖昧で推測招く」 | 2021年9月22日 |
朝日新聞 | 「中国恒大、23日期日の社債利払いを一部実施へ」 | 2021年9月22日 |
ワシントンポスト | 「Evergrande Isn’t HNA. It Might Be Worse.」 | 2021年8月18日 |
ブルームバーグ | 「ソフトバンクG傘下アーム、中国合弁トップとの対立激化-売却に難題」 | 2021年4月10日 |