誰でもわかる機関投資家|投資の知識

誰でもわかる機関投資家

誰でもわかる機関投資家|投資の知識

この記事のポイント
  • 機関投資家とは、生命保険会社、銀行、年金基金など、多くの人から集めた大量の資金を使って資産運用を行う大口投資家のことを指します。機関投資家は豊富な資産を持つため、市場参加者の中でもひときわ大きな影響力を持っています。
  • 機関投資家は扱う資金量が膨大なので、一度に取引を完結することができません。買いでも売りでも数度にわたって売買を行うため、ときには数週間にわたって出来高が膨らんだり、チャートにトレンドとなって現れます。
  • 一定の保有割合を超えて株式取引を行う場合、大量保有報告書や変更報告書といった報告書の提出が制度上義務付けられています。したがって、これらの報告書類を確認することで機関投資家の売買動向を伺い知ることができます。

機関投資家とは?

「2019年度 主要投資部門別株式保有比率の推移」日本取引所グループより

「2019年度 主要投資部門別株式保有比率の推移」日本取引所グループより(画像クリックで拡大)

関投資家とは、生命保険会社、損害保険会社、銀行、年金基金、政府系金融機関など、多くの人から集めた大量の資金を使って資産運用を行う大口投資家のことを指します。

MEMO
近年、株式持ち合いの解消が進み、金融機関の株式保有比率が大きく減少しています。また、所得水準の低下によって、個人の株式保有比率も低位で推移しています。これらの投資家に代わって株式保有比率を大きく伸ばしたのが、ノルウェー政府年金基金やブラックロックなどの海外機関投資家です。現在では市場取引金額の6割~7割を海外機関投資家が占めており、その影響力は年々拡大しています。

機関投資家の資産規模は個人投資家に比べてはるかに大きいため、市場参加者の中でもひときわ大きな影響力を持っています。ただ、その豊富な資金量が却って市場価格を歪めてしまうため、機関投資家は比較的投資期間の長い、中・長期投資を好む傾向があります。

つまり、機関投資家の売買動向を知ることで、中・長期的な株価の流れを予測することができます

機関投資家の動向を知るには

機関投資家の動きを知るには、①株式分布状況調査・投資部門別売買状況を確認する、②出来高の変化や株価の値動きを分析する、③大量保有報告書・変更報告書を確認する、④機関投資家の空売り残高を調べる、といった方法があります。

株式分布状況調査・投資部門別売買状況を確認する

「投資部門別株式売買状況 東証第一部金額」

「2021年6月第1週 投資部門別株式売買状況 東証第一部金額」日本取引所グループより

株式分布状況調査とは、株主名簿の記載に基づいてどのような株主がどのくらい株式を保有しているかを調査し、各投資家の属性ごとに集計したものです。株式分布状況調査を見ることで、外国法人や金融機関などの売買動向を知ることができます。

投資部門別売買状況とは、東証1部や2部といった市場区分ごとに、どういった投資家がいくら買い越し(または売り越し)たかを1週間ごとに集計したものになります。株式保有比率の高い外国人投資家が買い越していれば株価の上昇圧力に、売り越していれば下落圧力につながります。

これらの資料は日本取引所グループのホームページで閲覧することができます。

出来高の変化や株価の値動きを分析する

「JTOWER(4485)の6ヵ月日足チャート」

「JTOWER(4485)の6ヵ月日足チャート」ヤフーファイナンスより(クリックで拡大)

機関投資家は扱う資金量が巨大なので、買いにしても売りにしても長ければ数週間にわたってゆっくりと売買を行います。そうすると必然的に売買代金や出来高が膨らんだり、株価の値動きにトレンドが現れます。

実際の例をみてみましょう。レオス・キャピタルワークス株式会社は2021年8月6日にJTOWER(4485)に係る大量保有報告書を提出しました。報告書内で親会社のSBI証券と合わせてJTOWERの発行済株式数の5.16%を保有したことを明らかにしています。

MEMO
レオス・キャピタルワークス株式会社は、有名ファンドマネージャーの藤野英人氏が代表取締役を務める日本の独立系資産運用会社です。レオス・キャピタルワークスが運用する「ひふみ投信」は、2008年10月の設定から6倍以上の運用実績を誇っています。

上の画像のオレンジ色の矢印が大量保有報告書を提出した日で、オレンジ枠が買い集めた期間(筆者の推測)を表しています。レオスの買い占めにともなって出来高が増加し、株価が上昇していることがわかります。さらに、需給関係が好転したことで、その後の株価も上昇していることが分かります。

このように、機関投資家の売買によって出来高が増加したり、トレンドが生じることが分かります。注目している銘柄の出来高や株価の動きに変化があれば、大量保有報告書や空売り残高を調べてみましょう。もしかすると機関投資家の影響かもしれません。

大量保有報告書・変更報告書を確認する

EDINET-大量保有報告書検索

「EDINET-大量保有報告書検索画面」EDINETより

大量保有報告書とは、発行済み株式数の5%超を保有することとなった株主(大量保有者)が、大量保有者になった日から5日以内に内閣総理大臣(財務局長)に提出しなければならない書類のことです。

報告内容は、大量保有者の概要、保有目的、重要提案行為等、保有株券等の内訳などで、これを読めば機関投資家がどういった理由で買い占めたのかが分かります。仮に、大量保有の目的が買収目的であれば、提出者が今後も株式を買い進めて保有割合を高めることが予想でき、株価の上昇が期待できます。

なお、大量保有報告書を提出後、株式等保有割合が1%以上増減した場合には、変更報告書という書類の提出が義務づけられています。報告書の提出義務が生じた日の翌日から5営業日以内に提出する必要があるため、機関投資の売買手口をより詳細に分析することができます

大量保有報告書はEDINET(Electoronic Disclosure for Investors NETwork)という金融庁の電子情報開示システムから閲覧できます。

機関投資家の空売り残高を調べる

富士通の機関の空売り残高情報-karauri.netより

「富士通の機関の空売り残高情報」 karauri.netより

機関投資家の空売り残高を調べるには、「karauri.net」というサイトが便利です。

機関投資家が空売りを行う場合、資金力に物を言わせて強引に売り崩すことが多々あります。直近で複数社の機関投資家が空売りを行っている場合は、特に注意が必要です。また、逆に売りポジションを解消(買い戻し)しているときは株価が底堅く推移することが多いので、絶好の買いタイミングになります。

有名な機関投資家

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF:government Pension Investment Fund)

年金積立金管理運用独立行政法人-累積収益

「2001年度以降の累積収益」年金積立金管理運用独立行政法人より

年金積立金管理運用独立行政法人は厚生労働省所管の独立行政法人で、厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っています。2020年第3四半期時点で177兆7,030億円という世界でも有数の資産規模を誇る機関投資家です。

国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の4つの資産に均等に投資しており、国内株式だけでも45兆2,732億円もの資産を運用しています。

ノルウェー政府年金基金-グローバル(Statens pensjonsfond – Utland)

「運用資産の推移-単位は10億ドル」-ノルウェー政府年金基金

「運用資産の推移(左軸単位は10億ドル)」ノルウェー政府年金基金より

ノルウェー政府年金基金は、ノルウェーの石油収入を長期にわたって運用し、その資産を現在・将来にわたって活用するため、1990年に設立されました。2020年時点で総資産は1兆2750億ドル(約140兆2500億円)に達しており、欧州で最大の機関投資家となっています。

所有する財産の一定割合を年金や政府予算の財源として使用しているので、世界73カ国を対象として株式・債券・再生可能エネルギー・不動産の4つの分野に広く分散投資を行っています。株式に限ってみれば、世界の9123社に投資しており、世界の上場企業の1.4%の株式を保有しています。

日本企業にも2020年12月31日時点で1500社以上に投資しており、その時価は8兆3802億円にのぼります。ノルウェー政府年金基金は、個別銘柄を厳選して投資することが多く、その保有期間も長いため、大株主に名前がある銘柄は業績面でも需給面でも上昇しやすくなります。

注意
2021年4月12日にロイターで「ノルウェー政府系ファンド、財務省が投資先企業の削減を勧告」というニュースが流れました。具体的な報道がないのでどうなるかはっきりしませんが、もしかしたら投資企業数が削減されるかもしれません。

株式会社シティインデックスイレブンス・株式会社レノ

株式会社シティインデックスイレブンス・株式会社レノ-ホームページ

株式会社シティインデックスイレブンス・株式会社レノ-ホームページより

かつて「モノ言う株主」として一世を風靡した村上世彰氏とつながりのある企業です。時価総額が小さく、現預金など多額の流動資産を保有する企業をターゲットに、株式を買い占める(究極的には買収を目指す)手法が有名です。

2021年6月17日現在、シティインデックスイレブンスはグリーンエネルギー事業などに取り組む日本アジアグループにTOB(敵対的買収)をかけています。もともと日本アジアグループのMBO(経営陣による買収)に対抗するために始めたものですが、両社の間で争いが泥沼化しています。

村上氏は投資対象が割安だと判断すればひたすら買い上げていくので、好条件の提案が提示されない限り、問題は解決しないと思っています。この日本アジアグループを巡る争いが象徴しているように、村上氏の投資手法は割安企業の株をひたすら買い集める点に特徴があります。

株式会社ストラテジックキャピタル

「有沢製作所に対する株主提案」 ストラテジックキャピタルより

「株式会社有沢製作所に対する株主提案」 ストラテジックキャピタルより

ストラテジックキャピタルは、日本の独立系運用会社です。日本の割安企業に集中投資し、積極的な株主提案を通して企業価値の向上を図るアクティビィスト(モノ言う株主)としても有名で、2021年は有沢製作所や世紀東急工業といった企業に株主提案を行っています。

ただ、資金力がないので保有株式数も少なく、株主提案が通ることはほとんどありません。日本では珍しいアクティビストなので取り上げてみました。

まとめ

機関投資家とは、生命保険会社、損害保険会社、銀行、年金基金、政府系金融機関など、多くの人から集めた大量の資金を使って資産運用を行う大口投資家のことを指します。

近年、株式持ち合いの解消が進み、金融機関の株式保有比率が大きく減少しています。また、所得水準の低下によって、個人の株式保有比率も低位で推移しており、機関投資家の与える影響力はますます大きくなっています。

機関投資家は扱う資金量が巨大なので、時間をかけて売買を行います。そうすると必然的に売買代金が膨らんだり、大量保有報告書などの報告書類の提出が制度上求められることになります。したがって、売買代金や各種の報告書類を確認することで、機関投資家の売買動向を伺い知ることができます。

売買動向は、株式分布状況調査・投資部門別売買状況、大量保有報告書などを確認するとこで、簡単に調査することができます。一旦機関投資家が買い始めると、大量の需要が発生するため、需給面から株価が急上昇することが多いです。投資の際には、対象企業の業績だけでなく、機関投資家の動向も併せて調査しましょう。

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