DM三井製糖ホールディングス(2109):「ジレニア」のロイヤリティ収入に期待!|注目銘柄分析

DM三井製糖ホールディングス(2109):「ジレニア」のロイヤリティ収入に期待!|注目銘柄分析

DM三井製糖ホールディングス(2109):「ジレニア」のロイヤリティ収入に期待!|注目銘柄分析

この記事のポイント
  • DM三井製糖ホールディングス(2109)はノバルティスとの間で特許問題を抱えており、ロイヤリティの一部が収益計上できていない。しかし、ノバルティスと競合他社の裁判が結審に近づいているので、その結果次第では何らかの発表が行われる可能性も…。
  • 消費者の嗜好の変化や円安・インフレの影響で同社の業績は低迷しているが、EPS120円程度を稼ぐ実力がある。問題が収束し、ノバルティスとの訴訟が解決すれば、同社の株価も上昇するかも…。

DM三井製糖ホールディングス(2109)に長期投資!?

「DM三井製糖(2109)の10年月足チャート」マネックス証券より

「DM三井製糖(2109)の10年月足チャート」マネックス証券より(画像はすべてクリックすると拡大します)

アイペットホールディングス(7339)が第一生命にTOBされて資金に余裕ができたので、どこかのタイミングでDM三井製糖ホールディングス(2109)に長期投資しようかなと考えています。というのも、多発性硬化症の治療薬である「ジレニア」のロイヤリティー収入がそろそろ計上されるのではないかと、砂糖のように甘い期待を抱いているからです。

長期チャートをパッと見る限り絶対に投資してはいけない形をしていますが、今回は上記の結論に至った経緯を紹介したいと思います。

「ジレニア」とそのロイヤリティ支払いに関する問題

「ジレニアについて」DRs-Netより

「ジレニアについて」DR’s Netより(画像はすべてクリックすると拡大します)

「ジレニア」は多発性硬化症という自己免疫疾患の治療薬であり、台糖(現在のDM三井製糖ホールディングス)・吉富製薬(田辺三菱製薬と合併後に三菱ケミカルグループによって完全子会社化)・京都大学の3者による共同研究を基に創薬されました。1997年に日本を除く世界での開発・販売権がスイスの製薬大手であるノバルティス(Novartis Pharma AG)に供与され、2010年(日本では2011年)に同社は画期的な新薬「ジレニア(日本での名称:イムセラ)」の開発に成功します。

その後、ジレニアは年間3,000億円以上の売上を叩き出すまでに成長し、DM三井製糖ホールディングスに2011年3月期から2019年3月期の間だけで425億円に及ぶロイヤリティ(特許使用料)をもたらしました。しかし、ノバルティスは物質特許が切れる2019年2月になって突然「米国、EU等における製品の売上ベースのロイヤリティ支払い義務を定める規定の一部は無効」とし、国際商業会議所に仲裁手続きの申し立てを行って、ロイヤリティの支払いを拒否する姿勢をみせます。

「IFRS15号(顧客との契約から生じる収益)の図と設例による解説」KPMG資料より

「IFRS15号(顧客との契約から生じる収益)の図と設例による解説」KPMG資料より(画像はすべてクリックすると拡大します)

国際会計基準(IFRS)のルールでは、契約の当事者が自身の義務を確約しない(ノバルティスがロイヤリティを支払うと約束しない)限り収益認識ができないことから、DM三井製糖ホールディングスは争いのある部分のロイヤリティを収益計上ができなくなってしまいました。

会計基準上では法的な問題が解決したタイミングで一気に収益認識することになっていますが、この係争は提訴から3年以上たった現在まで続いており、解決の目途がついていません。ただ、国際商業会議所の結審までの期間が平均26ヶ月程度のようなので、さすがにそろそろ何らかの仲裁判断が下されるのではないかと期待しています。

「ジレニア」を巡る特許訴訟

「ジレニア訴訟(物質特許)に関するニュースリリース」田辺三菱製薬ホームページより

「ジレニア訴訟(物質特許を巡る裁判)に関するニュースリリース」田辺三菱製薬ホームページより(画像はすべてクリックすると拡大します)

「ジレニア」を巡る特許訴訟の現状についてですが、2019年に物質特許(有効成分の構造式に関する特許)が切れてしまったものの、ノバルティスが用法用量特許(薬の服用法・服容量に関する特許)を保有しているので、2027年までは独占的な地位が認められているようです。そのため、ジェネリックとの激しい競争にさらされて売上が半減するような事態は今のところなさそうです。

MEMO
多発性硬化症の新薬(タイサブリやテクフィデラなど)が次々と承認・販売されているのでジレニアの売上は年々緩やかに減少していますが、それでも2021年の売上は28億ドル近い数字となっています。
「Novartis Pharmaceuticals Corporation Applicant v. HEC Pharm Co. Ltd. et al.」アメリカ合衆国最高裁判所

「Novartis Pharmaceuticals Corporation Applicant v. HEC Pharm Co. Ltd. et al.(用法用量特許を巡る裁判)」アメリカ合衆国最高裁判所(画像はすべてクリックすると拡大します)

ただし、アメリカでは中国系製薬会社HEC Pharmを含む一部の企業が頑強に抵抗を続けており(他のアメリカのジェネリック会社とは和解済みで、ライセンス済みの商品が2023~2024年頃から上市される予定)、ノベルティスの用法用量特許を無効にするよう法廷闘争を繰り広げています。

具体的には、一審のデラウェア州裁判所ではノバルティスが勝訴しましたが、これを不服としたHEC Pharmが連邦巡回区控訴裁判所に控訴。今度は逆にHEC Pharm側に有利な判決が下された(地方裁判所の判決が破棄された)ため、ノバルティスがアメリカ合衆国最高裁判所に上訴している状況です。

EUでは今回係争中となっている特許の有効性が認められているようなので、個人的にはおそらくアメリカでもノバルティス側の勝訴となると思っています。ただ、結果は蓋を開けてみないと分かりません。この裁判の結果はDM三井製糖のロイヤリティにも係ってくる問題なので、結審したタイミングで何らかのIRが出そうな気がします。

ロイヤリティ収入はどのくらいになりそうか?

「ジレニア(FTY720)のロイヤリティについての説明」三井製糖2019年3月期決算説明会資料より

「ジレニア(FTY720)のロイヤリティについての説明」三井製糖2019年3月期決算説明会資料より(画像はすべてクリックすると拡大します)

ジレニアのロイヤリティ料率に関してですが、仲裁手続きが進行中であるため、情報がほとんど開示されていません。ただ、特許権の共同保有者である田辺三菱製薬の過去のIR資料を読むと、ロイヤリティ契約の有効性について自信を持ってはいるものの、そのレートについては「下がる」と明言しています。*2019年3月期決算説明会資料の質疑応答部分に記載

とすると、DM三井製糖のロイヤリティ収入も田辺三菱製薬に連動する形である程度下がることになりそうです。これまで年間40億円近い収入があったことを踏まえれば、ロイヤリティは半分の20億円前後くらいにはなるかなと予想しています。

したがって、仮にノバルティスの用法用量特許の保護期間が2027年まで及ぶとすると、2019年3月~2027年3月の8年間分のロイヤリティ収入が期待でき、20億円×8年で総額160億円ほどの特許料を受け取る計算になります。DM三井製糖の時価総額(2022年11月15日時点)がおよそ630億円なので、だいたい時価総額の4分の1近いロイヤリティーが手に入るかもしれません。

DM三井製糖ホールディングスの理論株価は?

「DM三井製糖ホールディングスの経営計画」2022年3月期決算説明会資料より

「DM三井製糖ホールディングスの経営計画」2022年3月期決算説明会資料より(画像はすべてクリックすると拡大します)

DM三井製糖ホールディングスは「スプーン印」で有名な三井製糖グループと「ばら印」で有名な大日本明治製糖グループが2022年10月に合併し、商号変更・持株会社化することで誕生しました。砂糖の製造販売では市場シェアの約35%を占めており、2位以下を大きく引き離す圧倒的なシェアを誇っています。

しかし、近年は消費者の嗜好の変化(無糖が好まれるようになった)によって砂糖の需要が長期的に減少していることから、海外展開やライフ・エナジー事業(介護・栄養療法食品やバイオ事業)に注力して業績を伸ばしています。

「DM三井製糖ホールディングス(2109)の業績の推移」マネックス証券より

「DM三井製糖ホールディングス(2109)の業績の推移」マネックス証券より(画像はすべてクリックすると拡大します)

同社の業績の推移をみると、売上高は順調に伸びているものの、利益が減少傾向にあることが分かります。これは、①ジレニアのロイヤリティが計上されなくなったこと、②円安・インフレで原材料の価格が上昇したことが主な要因です。

①については、ノバルティスとの紛争が解決すれば一括計上され、2027年までは一定のロイヤリティが入る形となっています。試算では約160億円程度の収入が入るので、事業収益とは別の一過性の収益として考えるべきだと思います。また、②については、円安・インフレに終息の兆しが見えていること、2022年12月にさらなる値上げを予定していることから、この問題もある程度の水準に収束すると考えられます。

したがって、①の影響で一株当たり495円(160億円÷発行済株式数3,200万株)のプラス、②の問題が解決すればEPS120円程度の収益(ジレニアのロイヤリティ計上前の2007年から2009年頃までの平均的な水準)が見込めるのではないかと推定しています。仮に、PER19.4倍(直近5年間の平均値)で評価されれば2,328円、PBR0.78倍(同)で評価されるなら2,800円(『前期末3,136.2円+今期EPS18.6円△今期予想配当60円+ジレニアのロイヤリティ495円』×0.78円*事業価値は含めず)くらいの価値はあると思っています。

DM三井製糖ホールディングスの株価は2022年11月15日現在で1,922円なので、52週最安値1,848円付近で仕込めれば20~30%の利益が得られるかもしれません。

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