金利と株価の関係②|現実には金利が下がる(上がる)と株価は下がる(上がる)

金利と株価の関係②|現実には金利が下がる(上がる)と株価は下がる(上がる)

金利と株価の関係②|現実には金利が下がる(上がる)と株価は下がる(上がる)

この記事のポイント
  • 配当割引モデルによると理論株価は「配当額÷投資家の期待収益率」と計算されるため、理論的には金利が下がる(上がる)と株価は上がる(下がる)。しかし、過去20年のチャートをみると、現実には金利の低下(上昇)は株価は下落(上昇)を招いていることが分かる。
  • その原因は①実効FFレートが金融政策の誘導目標金利となっていること、②金利水準が下ったことで株価の押し上げ効果に限界が生じたことにある。
  • ①政策金利は当局の景気予測に基づいて操作されるため、利上げ時には景気拡大による企業業績の改善が期待でき、利下げ時には景気悪化による企業業績の停滞が懸念されることから、金利が上がる(下がる)と株価が下がる(上がる)という正の関係が生まれる。
  • ②長期的に金利水準が低下したことで理論株価の計算には限界がきており、株価の押し上げ効果が低減している。金利と株価の負の関係が相対的にその意味を失ってしまったため、結果として金利と株価が正の関係が残される形となった。

現実には金利が下がる(上がる)と株価は下がる(上がる)

「実効FFレートとダウ平均株価・日経平均の比較」tradingviewより

「実効FFレートとダウ平均株価・日経平均の比較(上:ダウ平均株価、下:日経平均株価、赤枠部分は金利低下局面)」tradingviewより(画像はすべてクリックすると拡大します)

前回の記事(金利と株価の関係①|理論的には金利が上がる(下がる)と株価は下がる(上がる))では、理論株価の評価モデルを分析することで、金利の低下(上昇)は株価の上昇(下落)をもたらすと結論付けました。しかし、実際に過去のチャートを確認すると、現実には金利が下がる(上がる)とそれにつられて株価も下落(上昇)していることが分かります。

過去20年分のチャートを見ると、ダウ平均株価は2000年~2003年のITバブル崩壊、2008年~2009年のサブプライムローン危機、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックという3つの局面で金利が低下し、その後それに連動するように株価も大きく下落しています。

一方、日経平均もダウ平均と同様に2000年~2003年のITバブル崩壊、2008年~2009年のサブプライムローン危機、2020年の新型コロナウイルスのパンデミックという3つの局面で、金利の低下と株価の下落が起きています。そして、さらに遡れば1980年代から90年代のバブル崩壊時にも、金利の低下と株価の下落が同時に発生していることが分かります。

このように、理論的には金利と株価は負の関係(金利と株価が正反対の動きを見せる)にあると考えられていましたが、現実には金利と株価は正の関係(金利と株価が同一方向に動く)にあることが観察できます。

MEMO
ここでは、実効FFレート(Effective Federal Funds rate)の推移を金利の変化として表しています。FFレート(Federal Funds rate)とは預託金額を維持するために資金を調達する短期金融市場の金利のことで、連邦準備理事会(The Federal Reserve Board)の誘導目標金利とされています。また、実効FFレートとは取引されたFFレートをそれぞれの取引高で加重平均したものになります。

なぜ金利が下がると株価も下がるのか?

「利上げと利下げについて」外為ドットコムより

「利上げと利下げについて」外為ドットコムより(画像はすべてクリックすると拡大します)

なぜ金利が下がる(上がる)と株価も下落(上昇)するのでしょうか?その答えは、①実効FFレートが金融政策の誘導目標金利となっていること、②金利水準が下ったことで株価の押し上げ効果に限界が生じたことにあります。

まず①についてですが、通常、連邦準備理事会は景気が拡大しそうな(好調な)時に政策金利を引き上げ、景気が落ち込みそうな時に政策金利の引き下げを行います。これによって、金利引き上げ時には消費を抑制して景気の過熱感を冷まし、また反対に、金利引き下げ時には人々の購買意欲を刺激して新たな需要を創出します。

つまり、政策金利は当局の景気予測に基づいて操作されるため、景気が上向いた(上向きそうな)時は利上げを、景気が落ち込んだ(落ち込みそうな)時は利下げが実施されるということになります。したがって、利上げ時(特に利下げから利上げへの転換期)には景気拡大による企業業績の改善が期待でき、利下げ時(特に利上げから利下げへの転換期)には景気悪化による企業業績の停滞が懸念されることから、金利が上がる(下がる)と株価が下がる(上がる)という正の関係が生まれるわけです。

「アメリカ10年物国債利回り(紫色)と日本国債10年物利回りの推移(水色)」

「アメリカ10年物国債利回り(紫色)と日本国債10年物利回りの推移(水色)」(画像はすべてクリックすると拡大します)

次に②についてですが、日米ともに長期的に金利水準が下ったことで、株価の押し上げ効果に限界が生じたことも、金利と株価が正の関係を持つ要因の一つとなっています。

「配当割引モデルとは?」

「配当割引モデルとは?」(画像はすべてクリックすると拡大します)

毎期の配当額100円、投資家の期待収益率が10%、1%の時の理論株価を考えてみましょう。配当割引モデルを使った場合、理論株価は「配当額÷投資家の期待収益率」と計算されるので、期待収益率10%の時の理論株価は1,000円、1%の時の理論株価は10,000円ということになります。

しかし、本当にこれは妥当な株価と呼べるでしょうか?金利の低下は確かに期待収益率の低下を招き、理論株価を押し上げますが、株価の基礎となる企業業績や配当額に重大な影響を与えることはありません。企業実態は全く変わっておらず、あくまで見かけ上の数値が変化したに過ぎません。

1980年代には10%近くあった金利も、コロナ対策として積極的な金融緩和に踏み切ったこともあり、2020年には1%を割る水準まで落ち込んでいます。2022年に入ってからは、ロシアによるウクライナ侵略の余波を受けてインフレが高進、その対策として金利が急激に引き上げられましたが、それでも4%を下回っている状態です。

このように、長期的に金利水準が低下したことで理論株価の計算には限界がきており、株価の押し上げ効果が低減しています。金利と株価の負の関係が相対的にその意味を失ってしまったため、結果として金利と株価が正の関係が残される形となったようです。

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