MMT理論は間違いか?「MMT現代貨幣理論入門」を読む

MMT現代貨幣理論入門-アイキャッチ

MMT理論とは?

現代貨幣理論(Modern Monetary Theory もしくは Modern Money Theory)とは、近年知られるようになったマクロ経済アプローチのことです。主な主張としては下記のようなものがあります。

MEMO
マクロ経済学とは、国民所得や失業率などの集計化された経済活動を分析することで、その経済構造や要因を明らかにしようとする学問のことです。主な経済主体としては、家計、企業、政府、海外などの部門があります。
  1.  主権を有する(通貨発行権があり、自由に政策を選択できる)政府が自らの通貨について支払い不能になることはあり得ない(例えば、日本国債は自国通貨建てで発行しているので、MMT理論に則ればデフォルト(債務不履行)に陥ることはない)。
  2.  租税制度の目的は政府の財源を供給することではなく、政府自身が発行する通貨に対する需要を生み出すことである(したがって、ある程度の財政収支を気にする必要はない)。
  3.  財政赤字(政府部門の赤字)は民間の黒字(民間の貯蓄超過)を意味している(民間の黒字を維持しようとすればある程度の財政赤字を甘受しなければならない)。

MMT理論の貨幣論

従来の商品貨幣論

原始的な社会では、物々交換が行われていたが、そのうちに、何らかの価値をもった「商品」が、便利な交換手段(つまり貨幣)として使われるようになった。その代表的な「商品」が貴金属、特に金である。これが、貨幣の起源である。しかし、金そのものを貨幣とすると、純度や重量など貨幣の価値の確認に手間がかかるので、政府が一定の純度と重量を持った金貨を鋳造するようになる。次の段階では、金との交換を義務付けた兌換紙幣を発行するようになる。こうして、政府発行の紙幣が標準的な貨幣となる。最終的には、金との交換による価値の保証も不要になり、紙幣は、不換紙幣となる。それでも、交換の際に皆が受け取り続ける限り、紙幣には価値があり、貨幣としての役割を果たす。 L・ランダル・レイ. MMT現代貨幣理論入門 (p.2). 東洋経済新報社. Kindle 版. *注:この引用部分は本書の冒頭解説にあたり、執筆者は中野剛志氏です。

従来の商品貨幣論は貨幣の歴史的な背景を踏まえたものとなっています。

日本を例にすると、物々交換を行っていた時代から、683年に唐の開元通宝をモデルにした初めての通貨「富本銭」がつくられ、金・銀・銅などの金属を素材にした通貨が流通します。その後、1871年に金本位制(金1.5g=1円)を規定した新貨条例が制定されますが、日露戦争や第1次世界大戦など度重なる戦争によって戦費がかさみ、円(裏付けとなる金)が大量に海外へ流出したことから、1932年に金本位制が完全に停止して管理通貨制に移行しました。

このように、商品貨幣論は貨幣の歴史的な経緯に基づいて成立しており、必然的に裏付けとなる資産(金や銀などの貴金属)や信用(通貨発行体の財政状態)が重要視されています。政府が国民や法人から税金を徴収することで財源を確保し、その税収の範囲内で支出を行うという前提は貨幣論的な考え方と言えます。

MMT理論の貨幣論

まず、政府は、債務などの計算尺度として通貨単位( 円、ドル、ポンドなど)を法定する。次に、国民に対して、その通貨単位で計算された納税義務を課す。そして、政府は、通貨単位で価値を表示した「通貨」を発行し、租税の支払い手段として定める。これにより、通貨には、納税義務の解消手段としての需要が生じる。こうして人々は、通貨に額面通りの価値を認めるようになり、その通貨を、民間取引の支払いや貯蓄などの手段としても利用するようになる。こうして、通貨が流通するようになる。要するに、人々がお札という単なる紙切れに通貨としての価値を見出すのは、その紙切れで税金が払えるからだというのである。 L・ランダル・レイ. MMT現代貨幣理論入門 (pp.3-4). 東洋経済新報社. Kindle 版. *注:この引用部分は本書の冒頭解説にあたり、執筆者は中野剛志氏です。

一方、MMT理論の貨幣論は「政府の徴税権(国民の納税義務)が通貨に対する需要を生み、通貨の価値を担保している」と主張しています。この考え方に基づけば、租税制度が有効であり続ける限りその通貨は価値を持ち続けることになり、通貨の裏付けとなる資産や信用は意味を失うことになります。つまり、政府は通貨に対する需要が担保され続ける限り通貨を発行できる(通貨発行権を有する)ので、自国建ての商品であれば何でも買える(支払い不能になることはない)ということになります。

主権を有する政府が、自らの通貨について支払不能となることはあり得ない。自らの通貨による支払期限が到来したら、政府は常にすべての支払いを行うことができるのである。 L・ランダル・レイ. MMT現代貨幣理論入門 (p.39). 東洋経済新報社. Kindle 版.

これまでの議論をまとめると、従来の経済学は政府が国民や法人から税金を徴収することで財源を確保し、その税収の範囲内で財政支出することを前提としていました。しかし、MMT理論は租税の本当の目的は政府の財源を供給することではなく、発行する通貨に対する需要を生み出すことだと主張しています。そして、政府が通貨発行権を有することから通貨に対する需要が失われない限り「主権を有する政府が、自らの通貨について支払い不能となることはあり得ない」として、これまでの常識に疑問を投げかけています。

MMT論者の帰結としては、①主権を有する(通貨発行権があり、自由に政策を選択できる)政府が自らの通貨について支払い不能になることはあり得ない(例えば、日本国債は自国通貨建てで発行しているので、MMT理論に則ればデフォルト(債務不履行)に陥ることはない)、②租税制度の目的は政府の財源を供給することではなく、政府自身が発行する通貨に対する需要を生み出すことである(したがって、ある程度の財政収支を気にする必要はない)ということになります。

MMT理論とマクロ会計

「ISバランスとは?」経済セミナー財政赤字の仕組み①貯蓄投資バランスより

「ISバランスとは?」経済セミナー財政赤字の仕組み①貯蓄投資バランスより(画像はすべてクリックすると拡大します)

会計とは情報の利用者が情報に基づいて適切な判断と意思決定ができるように、経済的な情報を識別、測定、および伝達するプロセスを指しており、マクロ会計とミクロ会計に分類されます。マクロ会計とはある一国の経済(国民経済)や特定の経済領域を単位とする会計であり、ミクロ会計とは経済活動を営む企業や個人など、個別的な経済活動単位ごとに行われる会計のことを意味しています。

マクロ会計の世界ではISバランス「民間貯蓄(S-I:国内貯蓄から国内投資を引いたもの(右辺の国内投資を左辺に移項したもの))=財政赤字(G-T:財政支出から税収入を差し引いたもの)+経常収支(X-M:海外への輸出から輸入を引いたもの)」という式が事後的に成立することが知られています。

この式に基づいて経常収支を一定のものだと仮定すると、民間貯蓄が財政赤字と等しくなることが分かります。つまり、政府が財政赤字を減らそうと歳出削減を推し進めれば、民間貯蓄も同じ額だけ減少してしまうことになります。そして、もしそこで家計や企業がフローの収支悪化や純資産の減少を回避する行動(支出の抑制)をとってしまえば、景気が落ち込んでしまったり、法人税などの税収が減ってしまい財政赤字の削減が思うほど進まないという事態に陥ってしまいます。

したがって、③MMT理論ではある程度の財政赤字は必要なものであり、経済活動を安定させるために甘んじて受け入れなければならないものということになります。

MMT理論は間違いか?

MMT理論は間違いか?同理論に対する批判

財政再建の議論で無視されがちな部門別の貯蓄・投資バランスの問題を提起している点は、MMTの重要な指摘であると考える。しかし、部門別の貯蓄・投資バランスの不均衡が拡大してしまう原因を放置して、失業者の発生や、企業の投資の減少といった経済活動の縮小均衡を避けるために、財政再建をせずに財政を拡張させるべきだ、という問題解決の方向性は間違っている。財政再建を成功させるためには、歳出削減や増税で財政部門の収支を改善させる努力をするだけでなく、民間部門の経済構造も変える必要があるというのが正しい理解であろう。 ニッセイ基礎研究所 櫨浩一「MMT理論を考える」

ニッセイ基礎研究所の「MMTを考える」というレポートでは、貯蓄・投資バランスの不均衡を生む原因を放置してしまうことへの懸念や、MMT理論の目標である完全雇用がすでに達成されていることを指摘しています。

「有効求人倍率と完全失業率の推移」厚生労働省オームページより

「有効求人倍率と完全失業率の推移」厚生労働省オームページより

特に完全雇用に関して言えば、日本の失業率は長期にわたって低水準で推移しており、ほぼ実現できている状態です。それは世界的にみても変わらず、アメリカの失業率5.36%(すべて2021年時点のデータ)、イギリスの失業率4.50%、フランスの失業率7.85%などと比較しても、日本の失業率2.82%は極めて低い数字となっています。

現在、MMT理論の妥当性に関する論争は盛んに行われていますが、未だに結論が出ていないのが実情です。そのため、学術的には同理論が正しいとも、間違いであるとも言い難い状況です。しかし、先ほどの完全雇用の例のようにこと日本に関して言えば、同理論を適用した政策は間違いだと考えています。

MMT理論の間違った使い方

世間にはMMT理論を拡大解釈したり、誤用したりしている例が数多く見受けられます。ここではそうした例を2つ紹介したいと思います。

間違った主張①・・・大規模な減税、積極的な財政出動を行うべきだ!

我々は、この原則をこう言い換える──税率は、政府の財政の結果(赤字、均衡、黒字のいずれであれ)が完全雇用と調和するように、設定されるべきである。米国のような(完全雇用状態で経常収支赤字となる)国は、おそらく完全雇用であっても財政赤字(経常収支赤字と国内民間部門黒字の合計に等しい)となる。日本のような(完全雇用状態で経常収支黒字となる)国は、完全雇用であれば比較的小さな財政赤字(国内民間部門黒字から経常収支黒字を引いたものに等しい)となる。 L・ランダル・レイ. MMT現代貨幣理論入門(pp.278-279). 東洋経済新報社. Kindle 版.

MMT理論を拡大解釈している人の中には、大規模な減税と積極的な財政出動を同時に実施するよう訴える人がいます。しかし、MMT理論の目的は完全雇用の維持にあり、それが達成できている日本のような国にはあてはまりません。上記の引用を読めばわかるように、L・ランダル・レイ氏も「日本の財政赤字は比較的小さなものとなる」と述べています。

誤った主張②・・・政府はいくら支出を増やしても良い

・過大な支出はインフレを引き起こす可能性がある。・過大な支出は為替レートに圧力を加える可能性がある。・政府による過大な支出は、民間のためにほとんど資源を残さないかもしれない。・政府がすべてを行うべきではない──インセンティブへの影響をねじ曲がったものにしてしまう可能性がある。・予算編成が、政府のプロジェクトを管理し評価する手段を提供する。 L・ランダル・レイ. MMT現代貨幣理論入門(pp.356-357). 東洋経済新報社. Kindle 版.

MMT理論を誤って解釈している人の中には、財政支出を無限に行えると勘違いしている人が多々見受けられます。しかし、著者のL・ランダル・レイ氏はインフレや為替レートに圧力をかけてしまう恐れがあることから、「支出する能力があるからというだけで、政府は支出を増やすべきだということにはならない」と述べています。

参考文献:「MMT現代貨幣理論入門」という本について

 

著者

著者はアメリカのポスト・ケインジアンの代表的研究者と知られるL・ランダル・レイ(Larry Randall Wray)氏で、ニューヨークのバード大学教授兼レヴィ経済研究所上級研究員を務めています。セントルイスのワシントン大学在籍中はハイマン・P・ミンスキーに師事しており、貨幣理論と金融政策、マクロ経済学、金融不安定性、雇用政策を専門としています。

おすすめ度☆5つ

今回の記事でもかなり参考にさせていただきましたが、「MMT現代貨幣理論入門」はMMT理論を理解するうえで欠かせない本です。内容が重複している部分があったり、経済学に関する知識があった方が読みやすいとは思いますが、「入門編」というだけあって数式や小難しい議論が出てこないので読みやすくなっています。

最近、MMT理論に関する誤った主張が数多く見受けられるので、反論したり、議論を深めていくためにも、一度は目を通す必要があると思います。価値ある本ですので、この機会にぜひご一読ください!

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