メリルリンチ・インターナショナルの空売り手法とは?|投資の知識

メリルリンチ・インターナショナルの空売り手法とは?|投資の知識

メリルリンチ・インターナショナルの空売り手法とは?|投資の知識

この記事のポイント
  • メリルリンチ・インターナショナル(Merrill Lynch International)は、イギリスのロンドンに拠点を置く投資運用会社で、現在は3,169十億ドル(約396兆円)の総資産を抱えるバンク・オブ・アメリカの傘下企業です。
  • 同社は①下降トレンドにある、②成長力が鈍化orバリュエーションが割高な銘柄を中心に空売りを仕掛けています。
  • メリルリンチ・インターナショナルが空売りする銘柄は、テクニカル的にもファンダメンタル的にも問題を抱えています。また、同社はしつこく売り崩してくるので、メリルリンチが空売りする銘柄には手を出さないほうが良いでしょう。

メリルリンチ・インターナショナルとは?

「メリルリンチ社のホームページ」

「メリルリンチ社のホームページ」

メリルリンチ・インターナショナル(Merrill Lynch International)は、イギリスのロンドンに拠点を置く投資運用会社です。

もともとはアメリカの大手投資銀行メリルリンチ(Merrill Lynch & Co., Inc.)の子会社でしたが、サブプライム・ショックで倒産してバンク・オブ・アメリカ(Bank of America Corporation)に救済買収されたことから、現在は同行の傘下企業となっています。

なお、バンク・オブ・アメリカは、2021年末時点で3,169十億ドル(約396兆円)の総資産を抱える世界有数の金融機関であり、銀行業務を始め投資銀行業務や保険業務など幅広い金融サービスを提供しています。

メリルリンチ・インターナショナルが空売りする銘柄の特徴は?

「2022年4月8日時点のメリルリンチ・インターナショナルの空売り状況」東京証券取引所データより

「2022年4月8日時点のメリルリンチ・インターナショナルの空売り状況」東京証券取引所データより

メリルリンチ・インターナショナルは直近で、ITコンサルティングを手掛けるヒューマンクリエイションホールディングス(7361)、卵黄由来の育毛剤「ニューモ」の通販で知られるファーマフーズ(2929)、抗がん剤の研究開発に特化した創薬ベンチャーのキャンバス(4575)などを空売りしています。

これらの銘柄の共通点として、①下降トレンドにある、②成長力が鈍化してor業績が低迷してバリュエーションが割高になっているという点が指摘できます。

MEMO
バリュエーションとは、企業が保有する資産や計上する利益から算出した企業価値評価のことです。企業価値評価額と株価を比較することで、株価が割高か割安かを判断します。主な指標としてはPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などがあります。

ヒューマンクリエイションホールディングス(7361)

①下降トレンドにある

「ヒューマンクリエイションホールディングス(7361)の2年週足チャートとメリルリンチ・インターナショナルの空売りポイント」マネックス証券より

「ヒューマンクリエイションホールディングス(7361)の2年週足チャートとメリルリンチ・インターナショナルの空売りポイント」マネックス証券より

ヒューマンクリエイションホールディングス(7361)の2年週足チャートを見ると、6週移動平均線が25週移動平均線を下抜けしたタイミングでメリルリンチが空売りを始めていることが分かります。

一般的に200日移動平均線を割ると下降トレンドに入るとされているので、メリルリンチはヒューマンクリエイションホールディングスが下降トレンドに入ったことを確認してから空売りを開始したことが分かります。

なお、余談ですがメリルリンチが上場来最安値付近で空売りを行ってる点も見逃せません。上場来最安値を更新するとIPO(新規上場)時以降のすべての投資家が含み損を抱えるため、投げ売りを伴う形で株価が大きく下落します。

あくまで個人的な見解ですが、メリルリンチは個人投資家の投げ売りを誘発しようと意図的に大規模な空売りを仕掛けたのかもしれません。

②成長力が鈍化してバリュエーションが割高になっている

「ヒューマンクリエイションホールディングスの通期業績と四半期業績の推移」

「ヒューマンクリエイションホールディングスの通期業績と四半期業績の推移」マネックス証券より

メリルリンチが空売りを行った理由として、ヒューマンクリエイションの成長力が鈍化してバリュエーションが割高になっているという点も指摘できます。同社の主要事業であるITコンサルティングや技術者派遣は需要が旺盛で、市場規模が拡大している事業分野です。したがって、当然ながら投資家からはある程度の高成長が期待されています。

しかし、ヒューマンクリエイションホールディングスの四半期業績の推移をみると、思うほど売上高成長率が伸びていないことが分かります。同社は21年9月期にヒューマンベース社とグローステクノロジーズ社の2社を買収しており、これによって売上高で200~300百万円程度の上乗せが期待できるはずですが、22年9月期の増収額は662百万円、増収率はわずか13.1%に過ぎません。

表面的には売上高成長率が9.9%(20年9月期)、10.3%(21年9月期)、13.3%(22年9月期)と上昇傾向にありますが、本業だけを見ると期待を裏切る低成長となっています。さらに、業績の推移を確認すると対前四半期ベースで利益が減少傾向にあることが分かります。季節変動も要因の一つであることは分かりますが、22年9月第1四半期は前年同期比で減益となっていることから、同社の成長力に陰りが見えはじめていることは明らかでしょう。

このように、メリルリンチはヒューマンクリエイションホールディングスが①下降トレンドにあり、②成長力が鈍化して割高になっていたことから空売りを仕掛けたのではないかと考えています。

キャンバス(4575)

①下降トレンドにある

「キャンバス(4575)の2年週足チャートとメリルリンチ・インターナショナルの空売りポイント」マネックス証券より

「キャンバス(4575)の2年週足チャートとメリルリンチ・インターナショナルの空売りポイント」マネックス証券より

キャンバス(4575)の2年週足チャートを見ると、移動平均線がきれいなパーフェクトオーダー(短期・中期・長期移動平均線がトレンドの方向に順番に並んでいること。この場合は、下降トレンドにあるので、下から短期→中期→長期移動平均線の順に並んでいる)を描いていることが分かります。

メリルリンチが空売りを始めたのは、キャンバスが開発する抗がん剤候補化合物・免疫着⽕剤CBP501の臨床試験に関するIRニュースを公表しだした時期で、業績改善への期待感から株価が2倍に急騰したタイミングになります。

株価が長い間下降トレンドを辿っている中で一時的に反発して上位の移動平均線にぶつかると、通常株価はその移動平均線を超えられずに下落します。実際、今回も新薬候補の臨床試験が期待していたほど進んでいなかったり、上市(販売)までには3~5年程度の時間がかかることが発表されたため、52週移動平均線(オレンジ色)を超えられず株価は大きく下落しています。

この例を見る限りメリルリンチはテクニカル分析を重視し、下降トレンドにある銘柄が急騰して上位の移動平均線にタッチしたタイミングで空売り(戻り売り)を行っているようです。

②業績が低迷してバリュエーションが割高になっている

「キャンバス(4575)の通期業績推移と貸借対照表」マネックス証券より

「キャンバス(4575)の通期業績推移と貸借対照表」マネックス証券より

メリルリンチ・インターナショナルがキャンバスに対して空売りを仕掛けた理由の一つには、業績が低迷してバリュエーションが割高だからという側面もあります。

キャンバスは抗がん剤の研究開発に取り組む創薬ベンチャー企業なので、研究開発や臨床試験に多額のコストを費やしています。そのため、同社の業績の推移を見れば分かるように、恒常的に赤字が続いています。定期的に新株予約権を発行して資金調達を行っていますが、2年分の赤字に相当する現預金しか保有していないので財政状態がかなり逼迫しています。

同社の一株あたり純資産額は40円程度なので、株価はさらに下落しても不思議ではありません。このように、メリルリンチが安心して空売りを行う理由の一つには、キャンバスのバリュエーションの割高さが挙げられます。

MEMO
新株予約権とは、権利を行使することで発行企業の株式を取得することができる権利のことです。あらかじめ定められた期間内であれば、いつでも定められた価格で新株の交付を受けることができます。新株予約権を発行すると、発行済株式数が増えるため株式の価値は低下(希薄化)します。

メリルリンチ・インターナショナルの直近の売り崩し事例

キャンバス(4575)の売り崩し事例

「メリルリンチ・インターナショナルによるキャンバス(4575)の売り崩し事例」マネックス証券より

「メリルリンチ・インターナショナルによるキャンバス(4575)の売り崩し事例」マネックス証券より

キャンバス(4575)の6ヶ月日足チャートにメリルリンチの空売りポイントを重ねると、メリルリンチが連日のように空売りを行い、売り崩しを図っている様子が良く分かります。

キャンバスが同社の主要な新薬候補である抗がん剤候補化合物・免疫着⽕剤CBP501に関するIRニュースを出すと、業績への期待感から株価は一時2倍近くまで高騰しました(画像中央部)。そして、その後のリリースで同社の業績が今後数年間は低迷することが分かると、株価は次第に落ち着きを取り戻します。

メリルリンチは投資家の期待感が剥落するタイミングを見逃さず、株価が200日移動平均線を下抜けたタイミングで空売りポジションを構築し始めました。そしてその後は連日のようにポジションを積み増し、売り崩しを図っています。

メリルリンチは今もキャンバスの発行済株式の2.56%の空売りポジションを保有しています。所々でポジションを調整するために買い戻していますが、チャートを見る限りまだまだ売り崩しを狙ってきそうです。

その他の主要な機関投資家の空売り手法について

その他の機関投資家の空売り手法については、関連記事でまとめています。詳細については各記事をご参照ください!

主要な機関投資家の空売り手法について

こちらの記事では主要な投資家の空売り手法についてまとめています。複数の機関投資家の空売り成功例と失敗例を並記しているので、各投資家の売買手法の違いが良くわかると思います。

機関投資家の空売りの手口機関投資家の空売りの手口~空売り成功例と失敗例~|投資の知識

個別の機関投資家の空売り手法について

こちらでは、各機関投資家の空売り手法について個別に記事にまとめています。

【ゴールドマン・サックスの空売り手法についてはこちら】

ゴールドマン・サックスの空売り手法とは?ゴールドマン・サックスの空売り手法とは?|投資の知識

【ノムラ(野村)・インターナショナルの空売り手法についてはこちら】

ノムラ(野村)・インターナショナルの空売り手法とは?|投資の知識ノムラ(野村)・インターナショナルの空売り手法とは?|投資の知識

【クレディ・スイスの空売り手法についてはこちら】

クレディ・スイスの空売り手法とは?クレディ・スイスの空売り手法とは?|投資の知識

まとめ

メリルリンチ・インターナショナル(Merrill Lynch International)は、世界有数の巨大金融機関であるバンク・オブ・アメリカ傘下の投資運用会社です。

同社の空売り手法を分析すると、①下降トレンドにあり、②成長力が鈍化しているorバリュエーションが割高な銘柄を積極的に空売りしています。一度空売りを始めると、連日のようにポジションを積み増して売り崩しを狙ってくるので、かなりやっかいな機関投資家です。

メリルリンチ・インターナショナルが空売りする銘柄はテクニカル的にもファンダメンタル的にも問題を抱えている場合が大半です。また、しつこく空売りされる危険性もあるので、メリルリンチ・インターナショナルが空売りしている銘柄には手を出さないほうが良いでしょう。

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