ロシアに対する経済制裁で被害を受ける日本企業は?

ロシアに対する経済制裁で被害を受ける日本企業は?

この記事のポイント
  • 米国やEUはロシアに対して強力な経済制裁を科すと発表しています。資産凍結をはじめとする金融制裁が中心ですが、EUは半導体や最先端技術に関する製品と技術の輸出規制を導入するなど、ロシア経済にダメージを与えようと躍起になっています。
  • 日本たばこ産業(2914)はロシアのたばこ販売市場で3割強のシェアを占めており、同国内での売上は177,170百万円(2020年度)に達しています。ロシア経済が弱まればたばこの販売本数が落ち込んだり、ルーブル安の影響で収益性が低下するなど大きな影響を受けるでしょう。
  • 飯田グループホールディングス(3291)は2021年12月にロシア最大級の林産企業グループRussia Forest Products社を買収しました。林業は制裁対象ではありませんが、通貨安が続けば収益性が低下し、減損損失を計上する可能性があります。
  • フェローテックホールディングス(6890)は2020年にロシアの超小型サーモモジュールメーカー RMT社を買収しました。小規模な会社ですが、EUの輸出規制の影響を受ける可能性があります。
  • その他については、資源開発に取り組んでいる商社などが影響を受ける可能性がありますが、今のところインフレを抑えるために原油や天然ガスについては対象から外されています。
  • 最後に、ロシアが経済制裁に対する報復措置をとると、影響は甚大です。今後のニュースに注意が必要です。

ロシアに対する経済制裁の内容は?

米国・EUはロシアへの経済制裁として、特定の企業や産業を対象とした制裁を科しています。以下で、各国の制裁内容について簡単に触れていきたいと思います。

注意
ロシアの主要金融機関をSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication:国際銀行間通信協会)から除外するというニュースが流れていますが、正式なプレスリリースがないのでここでは記事にしていません。

米国の対ロ制裁の内容は?

「アメリカの対ロ経済制裁についてのリリース」米財務省HPより

「アメリカの対ロ経済制裁についてのリリース」米財務省HPより

米国は①2つの巨大金融機関と3つの主要な金融機関、②ロシア経済にとって重要な13の企業に制裁を科すことを明らかにしています。

【①制裁の目的】ロシアの金融機関は日々世界で約460億ドル相当の外国為替取引を行っており、その80%は米ドル建てで決済されています。制約を加えることで、アメリカの金融システムから切り離し、その活動を制限することができます。

【①の制裁内容】ロシア最大の金融機関であるSberbankについてはコルレス口座とペイヤブル・スルー口座の閉鎖、ロシア第2位の金融機関であるVTB Bankと主要な金融機関(Otkritie、Sovcombank、Novikombank)に対してはブロッキング制裁(アメリカの管轄権が及ぶ範囲内での資産凍結)が科せられます。

【制裁対象企業一覧①(これら企業の子会社も対象に含まれます)】

  1. Sberbank・・・ロシアの全銀行資産の約3分の1を保有する国内最大の金融機関。
  2. VTB Bank・・・ロシアの全銀行資産の20%近くを有する国内第2位の金融機関。
  3. Otkritie・・・ロシア7位の国営金融機関。
  4. Sovcombank・・・政府とのつながりが深いロシア9位の金融機関。
  5. Novikombank・・・親会社Rostecがロシアの国営軍需コングロマリット。

【②制裁の目的】指定されたロシアの13の企業はロシア経済に不可欠な存在となっています。これらの企業の新たな借入と資本調達を禁止することで、ウクライナ侵攻の支援を含めたロシアの悪意ある活動のための資金調達を制限することができます。

【②の制裁内容】アメリカ国内での新規の借入と資本調達を禁止。

【制裁対象企業一覧②(これら企業の子会社も対象に含まれます)】

  1. ズベルバンク・・・ロシア最大の金融機関。
  2. ガスプロムバンク・・・エネルギーセクターと密接な関係があるロシア3位の金融機関。
  3. ロシア農業銀行・・・農業部門と密接な関係があるロシア5位の金融機関。
  4. ガスプロム・・・世界最大の天然ガス会社。
  5. ガスプロムネフチ・・・ロシア最大の石油生産・精製業者の1つ。
  6. Transneft・・・石油関連パイプラインネットワークを管理する会社。
  7. Rostelecom・・・ロシア最大の電気通信会社。
  8. RusHydro・・・水力発電会社でありロシア最大の電力会社の1つ。
  9. Alrosa・・・世界最大のダイヤモンド採掘会社であり、ロシアの採掘能力の90%を担う会社。
  10. Sovcomflot・・・ロシア最大の海運および貨物輸送会社。
  11. ロシア鉄道・・・世界最大の鉄道会社の1つ。
  12. アルファ銀行・・・ロシア最大の個人所有の銀行でありロシア4位の金融機関。
  13. クレジットバンク・・・ロシア最大の民間銀行でありロシア6位の金融機関。

EUの対ロ制裁の内容は?

「EUの対ロ追加経済制裁についてのリリース」欧州理事会・欧州連合理事会HPより

「EUの対ロ追加経済制裁についてのリリース」欧州理事会・欧州連合理事会HPより

EUは具体的な企業を名指しせず、複数の重要産業に商品や技術の輸出規制を導入しています。具体的には、①エネルギー部門、②運輸部門、③テクノロジー部門の3つの分野に対して、製品と技術の輸出規制を実施すると発表しています。

【①エネルギー部門】ロシアの主要な輸出産業である石油部門に打撃を与えるために、石油精製における特定の商品および技術のロシアへの販売、供給、移転、または輸出を禁止し、関連サービスの提供に制限を導入するとしています。

【②運輸部門】現在ロシアの航空機の4分の3がEU、米国、カナダで製造されているため、ロシア経済と運輸機能を低下させることを目的として、航空および宇宙産業における商品および技術を対象とする輸出禁止、ならびにそれらの商品および技術に関連する保険および再保険および保守サービスの提供の禁止を導入するとしています。

【③テクノロジー部門】デュアルユース(軍事転用可能な)製品と技術の輸出にさらなる制限を課し、また、ロシアの防衛と安全保障部門の技術強化に寄与する可能性のある特定の商品と技術の輸出に制限を課すとしています。これには半導体や最先端技術に関する製品が含まれます。

注意
日本もいくつかの対ロ制裁を実施すると発表していますが、現段階では正式発表が無いようなので割愛します。なお、報道ベースではロシアの金融機関に対する金融規制や先端技術の輸出規制が導入されるようです。

制裁対象から除外される取引は?

今回の制裁が第三者への意図しない結果をもたらすことの無いように、米国は一般ライセンスを発行しています。これによって農産物・医療品・エネルギーなどに関する取引については、規定されているすべての条件を満たすことを確認できれば、財務省外国資産管理室(OFAC)の申請を必要とせずに取引を行うことができます。

また、ブルームバーグの報道によればバイデン政権の方針として石油製品などの生活必需品については今後も引き続き制裁対象外にする旨を明らかにしています。EUの制裁も石油精製に関する規制なので原油等のエネルギー資源に対しては制裁対象から除外されるようです。

ロシア産原油を標的にした制裁はプーチン大統領ではなく米国の消費者の痛手となるため、バイデン米政権はそのような制裁は行わない方針だ。米国務省の当局者が25日、明らかにした。国務省でエネルギー安全保障を担当するエイモス・ホクスタイン上級顧問は「制裁はこの先も石油のフローを標的にしない」とブルームバーグテレビジョンとのインタビューで語った。プーチン氏に最大限の痛手を負わせながらも、米欧の消費者に及ぶ悪影響を最小限に抑えるというバイデン政権のアプローチを強調する発言だ。ブルームバーグ 2022年2月26日

ロシアに対する経済制裁で被害を受ける日本企業は?

日本たばこ産業(2914)

「Megapolisグループへの売上収益」JT第36期有価証券報告書(2020年1月1日~2020年12月31日)より

「Megapolisグループへの売上収益(ロシア国内での販売はグループ会社のCJSC TK Megapolisが担っている)」JT第36期有価証券報告書(2020年1月1日~2020年12月31日)より

日本たばこ産業(JT)は2018年にロシア4位のたばこメーカー「ドンスコイ・タバック」を約1,900億円で買収しました。これにより、JTのロシア国内でのたばこ市場のシェアが36.7%(2021年末時点)を占めるまでに成長しています。

ロシアでのたばこの販売は主にCJSC TK Megapolisというたばこの物流・卸売事業を営む会社に委託されており、その売上収益は177,170百万円(2020年度)となっています。つまり、最悪の場合1,700億円近い売上とその利益が吹き飛ぶ恐れがあるということです。

MEMO
なお、ロシアへの経済制裁が長期化すればドンスコイ・タバックの減損(買収企業の資産価値の低下で発生する損失)を計上する可能性があります。いくらになるかは分かりませんが、多額の損失が計上される恐れがあるので注意しましょう。
「たばこ販売本数の減少と通貨安で海外たばこ事業が減収減益に」日本たばこ産業2015年度決算短信より

「たばこ販売本数の減少と通貨安で海外たばこ事業が減収減益に」日本たばこ産業2015年度決算短信より

売上や利益の減少はたばこの販売本数が低下するだけではなく、ルーブル安(ロシア通貨安)が生じることでも起こり得ます。実際、2015年度の決算ではロシアの通貨安の影響で海外たばこ事業が減収減益に陥っています。

注意
海外たばこ事業はドル建てで取引を行っているようです。したがって、為替の影響については①タバコの取引によって生じるルーブル⇔ドル間の為替相場と②決算時の為替換算によって生じるドル⇔円の為替相場の影響を受けます。

今後、ロシアに対して厳しい経済制裁が科され、たばこの需要が低迷したり、ルーブル安が生じればJTの業績が悪化する恐れがあります。JTの売上収益の7~8%がロシアでのたばこ販売から生み出されているので、影響は無視できません。投資には注意が必要です。

飯田グループホールディングス(3291)

「Russia-Forest-Products-社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」飯田グループホールディングスIRニュースより

「Russia-Forest-Products-社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」飯田グループホールディングスIRニュースより

戸建・マンションなどの分譲住宅の販売を中心とする飯田グループホールディングスは、2021年12月8日にロシア最大級の林産企業グループRussia Forest Products社の株式75%をおよそ600億円で買収し、子会社化すると発表しました。

「Russia Forest Products社の概要」飯田グループホールディングスのIRニュースより

「Russia Forest Products社の概要」飯田グループホールディングスのIRニュースより

林業に関しては直接的に経済対象に指定されているわけではありませんが、ロシアの主要な金融機関が制裁対象に加えられており、ロシア通貨が暴落しています。つまり、上手く収益化が進んだとしても為替安の影響で収益性が低下してしまうことになります。

MEMO
2022年2月1日時点では1ルーブル=1.5円で取引されていましたが、2月28日執筆時点では1ルーブル=1.06円となっています。仮にロシアで10億ルーブルの利益を計上できても、円換算すれば15億円の利益から10.06億円の利益へと大きく目減りしてしまう計算になります。

対ロ制裁がいつまで続くか分かりませんが、買収タイミングが悪く減損損失が発生する可能性も捨てきれません。飯田グループホールディングスの2022年3月期の当期純利益の予想は86,000百万円となっており、最悪の場合この利益がほぼすべて吹き飛ぶかもしれません。

フェローテックホールディングス(6890)

「超小型サーモモジュールメーカー-RMT社の出資持ち分取得(子会社化)に関するお知らせ」フェローテックホールディングスIRニュースリリースより

「超小型サーモモジュールメーカーRMT社の出資持ち分取得(子会社化)に関するお知らせ」フェローテックホールディングスIRニュースリリースより

フェローテックホールディングスは2020年10月14日のIRニュースリリースで、連結子会社であるFTE社(Ferrotec Europe GmbH)を通じて、ロシアの超小型サーモモジュールメーカー RMT社を買収すると発表しました。

「RMT社の概要」フェローテックホールディングスIRニュースリリースより

「RMT社の概要」フェローテックホールディングスIRニュースリリースより

RMT社については既に100%子会社化し連結決算を発表していますが、EUが半導体や最先端技術の輸出規制を始めたことから業績悪化が懸念されます。

同社の2019年12月期の売上は756.2百万ルーブル(当時の相場で1,036.0百万円)、純利益は125.8百万ルーブル(同172.3百万円)となっており、フェローテックグループ全体の業績(2022年3月期の業績予想は売上高125,000百万円、純利益23,500百万円)からすれば大きくはありません。

しかし、買収額が非開示となっているので、金額次第では減損損失が計上される危険性があります。純利益の10%にも満たないと思いますが、警戒しておいた方がよいでしょう。

その他

「三菱商事のサハリン2プロジェクトに関する特設ページ」三菱商事HPより

「三菱商事のサハリン2プロジェクトに関する特設ページ」三菱商事HPより

三菱商事、三井物産、伊藤忠、丸紅などの商社はサハリンプロジェクトに参加しています。今のところエネルギー分野に関しては制裁対象外とされていますが、ロシアが何らかの報復措置をとれば大きな影響を受ける可能性があります。今後の情勢には注意が必要です。

MEMO
「サハリンプロジェクト」とはサハリン島を取り巻く9つの鉱区で石油・天然ガスを開発するプロジェクトで、エクソンモービルやロイヤルダッチシェルなど世界の石油メジャーが共同出資して採掘を進めています。
注意
米石油大手エクソンモービルはサハリン1プロジェクトから、英石油大手シェルはサハリン2プロジェクトからそれぞれ撤退する声明を出しました。石油メジャーが次々と逃げ出している状況なので、日本勢も持分を売却することになりそうです。その場合は買い手がつかないので、多額の損失を計上することになるそうです。

ロシアが何らかの報復を行えば…

ロシアは世界第11位の経済大国

「2020年の世界のGDP」グローバルノートより

「2020年の世界のGDP」グローバルノートより

ロシアは日本の約45倍にあたる約1,710万平方キロメートルの国土をもち、1億4,680万人(2017年時点)の人口を有しています。GDPは1478.6(10億ドル)で全世界の1.7%を占め、第11位の国力を誇ります。

一方、EU27カ国すべて合わせると国土は約429万平方キロメートル、人口は4億4,731万人(2020年)となっています。GDPは15263.9(10億ドル)に達しており、全世界のGDPの18.0%をEUが占める計算になります。

仮にロシアがEUに対して報復を行えば世界のGDPの19.7%に影響が及ぶことになり、アメリカ(世界のGDPに対する構成比:24.6%)や日本(同:5.9%)も含む報復ならば世界のGDPの50.2%に悪影響が及ぶことになります。もちろんそうなれば、各国も何らかの経済的なダメージを受けることになり、影響は計り知れません。

欧州は天然ガスの多くをロシアに依存

「EU加盟27カ国の電源構成と天然ガスの輸入シェア」Business Insider Japanと野村アセットマネジメントより

「EU加盟27カ国の電源構成と天然ガスの輸入シェア」Business Insider Japanと野村アセットマネジメントより

ロシアが取りうる報復措置として「鉱物性燃料(石油、石炭、天然ガス)の輸出を禁止する」という方法があります。特に欧州は電源の20%を天然ガスに頼っており、その輸入シェアの37.5%をロシアが占めています。ロシアが天然ガスの輸出を停止すれば欧州にとってはかなりの痛手となるでしょう。

もっとも、ロシアは輸出額のほぼ半分が鉱物性燃料となっているので、仮にこれを輸出停止にすれば外貨獲得の機会を失うことになります。

ただ、誰も予想しえなかったウクライナへの軍事侵攻を決断したロシアからすれば、なりふりかまわずあらゆる手段を使って報復してもおかしくありません。その場合は上記企業だけでなく、あらゆる企業に回復不能な被害がでます。今後の世界情勢には注意が必要です。

参考資料等

配信元 配信日 記事タイトル
産経新聞 2022年2月25日 「JT、トヨタ…ウクライナ侵攻で事業停止相次ぐ」
ブルームバーグ 2022年2月26日 「バイデン米政権、ロシア産原油は制裁対象にしない-国務省上級顧問」
U.S. DEPARTMENT OF THE TREASURY 2022年2月24日 「U.S. Treasury Announces Unprecedented & Expansive Sanctions Against Russia, Imposing Swift and Severe Economic Costs」
Council of the EU 2022年2月25日 「Russia’s military aggression against Ukraine: EU imposes sanctions against President Putin and Foreign Minister Lavrov and adopts wide ranging individual and economic sanctions」

 

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