目次
テクニカル分析の古典的名著「マーケットのテクニカル百科 入門編」
- 「マーケットのテクニカル百科 入門編」はアメリカで授業の教科書として使用されているテクニカル・アナリシス・オブ・ストック・トレンド(Tecchnical Analysis of Stock Trends)という本の訳書になります。
- 原著は本来は1冊にまとめられていましたが、翻訳版では入門編と実践編の2冊に分割して出版されています。チャートパターンなどの基礎的な内容について知りたい方は「入門編」を、具体的な投資戦術について知りたい方は「実践編」をご覧ください。
- この本は、テクニカル分析の基礎的な内容を網羅しているので、ダウ理論やチャートパターンに詳しくない方にとっては最適な1冊となっています。出版から70年以上も経っていても全く色あせない古典的な名著ですので、ぜひご一読ください!
「マーケットのテクニカル百科 入門編」のハイライト
テクニカルアナリストは株価をその株式の内在価値によって判断するのは無意味であると考えている。例えば、USスチールは1929年初秋には261ドルであったが、1932年6月にはわずか22ドルで買うことができた。その後1937年3月には126ドルとなったが、1年後には38ドルまで下がった。1946年5月には再び97ドルまで上昇したが、それから10ヵ月後の1947年には70ドルまで下落した。(略)USスチールのバランスシートによると、同社の1株当たり純資産は1929年末で約204ドル、1932年は187ドル、1937年には151ドル、1938年は117ドル、1946年には142ドルとなっている。 (Amazon Kindle位置情報 No.607/4710)
ファンダメンタリストは損益計算書、貸借対照表、企業の経営政策や経済指標など、様々な統計データから企業の本質的価値を予測し、評価額以下の安値で売買されている銘柄を投資対象として注目します。
しかし、上記の例のように株価は時に本質的価値とは無関係な振舞いを見せます。株価が潜在的な投資家の願望、恐怖心、雰囲気、資金力といったものに左右され、その需要と供給によって生み出されている以上、いくら過去のデータを分析しても意味はありません。
「マーケットのテクニカル百科 入門編」では、チャートから需給関係を読み解くテクニカル分析こそが将来株価を予測するのにふさわしい手法だと断じています。
ダウ理論 8. 2つの原則は確認されなければならない。(略)この原則が意味するものは、トレンド転換の有効なシグナルはひとつの平均株価だけでは十分ではないということである。 (Amazon Kindle位置情報 No.886/4710)
本書では、テクニカル分析の理論的な背景に関する説明から始まり、ダウ理論、チャートパターン、支持線と抵抗線といった、テクニカル分析に必要な個別のテクニックを解説しています。
上記のハイライトはダウ理論のうちの8番目の原則である「確認の原則」についての説明です。確認の原則とは、「1つの平均株価でトレンドの転換が確認できただけでは時期尚早であり、2つ以上の平均株価で反転のシグナルが生じないと有効ではない」というものです。
画像をみると、ダウ工業株平均は上昇トレンドにあるものの、鉄道株平均は下降トレンドが継続しています。したがって、この段階では相場が転換したとは言えません。
A.力強い大きな上昇はクライマックスに達し、出来高も急増する。そこから浅く押して、出来高は上昇局面や目先天井よりも減少する。これが「レフトショルダー(左肩)」である。B.ここから大商いを伴って左肩の天井を上抜く水準まで上昇する。その後に出来高は減少して、左肩の安値近辺まで下落する。この安値は先の安値よりも幾分高かったりまたは低いこともあるが、どのような場合でも左肩の天井よりは低い。これが「ヘッド(頭)」である。C.3回目の上昇であるが、出来高は左肩やヘッドのときよりも決定的に少ない。株価はヘッドの高さには届かずに急反落する。これが「ライトショルダー(右肩)」である。D.3回目の最後の下げは左肩とヘッドで挟まれた安値(谷)、ヘッドと右肩の間 の谷を結ん だ「ネックライン」を下抜き、終値でそのラインから約3%以上下落する。これが「確認」であり、「下放れ(ブレイクアウト)」である。 (Amazon Kindle位置情報 No.1453/1461)
このハイライトは代表的なチャートパターンであるヘッド・アンド・ショルダーズの説明文です。
多くの本はチャートパターンの特徴的な形(画像)について記述するだけで、出来高との関連性、ブレイクアウトの基準(3%超の下落)、反転後の目標価格(値幅理論)について触れることはありません。しかし、「マーケットのテクニカル百科 入門編」はこうしたチャートパターンの解説を丁寧に行ってくれているので、初心者の方でも簡単に理解することができます。
この本の初版は1948年と古く、使用されているチャートもローソク足ではないので読みにくいですが、書かれている内容はいささかも色あせていません。不朽の名著と言えます。
「マーケットのテクニカル百科 入門編」のおすすめポイント
「マーケットのテクニカル百科 入門編」はアメリカの多くの大学で教科書として使用されている「テクニカル・アナリシス・オブ・ストック・トレンド(Tecchnical Analysis of Stock Trends)」という本を日本語に翻訳したものになります。
入門編では、テクニカル分析の理論的背景、ダウ理論、チャートパターン(反転パターン)、支持線と抵抗線などが解説されています。テクニカル分析に必要不可欠な要素を網羅しているので、この1冊をしっかりと学習すれば、基礎的な知識は十分身につけることができるでしょう。
この本の欠点としては、①初版の発行から70年以上経っていて掲載されているチャートが古い点、②1冊にまとめられていた原著を無理やり2冊に分けて出版したため、具体的な投資戦術などに関しては後半の実践編を購入しないと分からない点などが挙げられます。
①に関してですが、2014年に改訂された最新の第4版でも1900年代半ばのチャートが使用されています。特に、年号や出来高の部分は全体的に黒ずんでいて判別しにくく、チャートもラインチャートなので細かい部分が確認しにくくなっています。(もっとも、文章は平易で分かりやすく、翻訳文にありがちな分かりにくい表現もないので、まったく理解できないわけではありません。)
次に②に関してですが、この入門編ではダウ理論やチャートパターンの解説に終始しており、具体的な投資手法(エントリータイミングやMACDなどの各種インジケーターについての説明等)についてほとんど触れていません。
本来1冊だった原著を無理やり2冊に分けて出版しているので、あくまで入門編という位置づけ通りの内容になっており、物足りない部分があります。投資戦術について知りたい場合は実践編も購入しないといけない仕組みとなっていて、面倒で不快に感じます。
以上、少なからず欠点はありますが、「マーケットのテクニカル百科 入門編」は株式市場の基本的な動きを分かりやすく表現で説明しているので、テクニカル分析について学びたい方にはおすすめの1冊と言えます。古典的名著と呼べる本なので、ぜひご一読ください!
「マーケットのテクニカル百科 入門編」の著者
ロバート・D・エドワーズ
ロバート・D・エドワーズは原著であるテクニカル・アナリシス・オブ・ストック・トレンド(Tecchnical Analysis of Stock Trends)の共著者です。
チャールズ・ダウが考案した理論(ダウ理論)をウィリアム・ピーター・ハミルトンやリチャード・W・シャバッカーから引き継ぎ、マサチューセッツ工科大学の同窓生であったジョンマギーとともに同理論を体系化、テクニカル分析の基礎を築き上げました。
ジョン・マギー
ジョン・マギーはこの本の原著であるテクニカル・アナリシス・オブ・ストック・トレンド(Tecchnical Analysis of Stock Trends)の共著者です。
ロバート・D・エドワーズとの共同研究を通じてダウ理論の発展に寄与し、その科学的で実践的なアプローチから「テクニカル分析の父」と呼ばれています。
W・H・C・バセッティ
W・H・C・バセッティは、この本の原著であるテクニカル・アナリシス・オブ・ストック・トレンド(Tecchnical Analysis of Stock Trends)8版の編集者兼共著者です。1960年代にジョン・マギー氏の下でトレーディング技術を学び、株式、債券、オプション、先物などの幅広い金融商品を対象に、トレーダーとしてのキャリアをスタートさせました。
その後、1972年にはカリフォルニア州で初めて認可された商品取引アドバイザーの代表兼副社長として、コンピューターによる取引システムを他社に先駆けて開発。1984年にはブレア・ハルが設立したオプション・リサーチ社のCEOに就任し、オプション取引や先物取引の分析にコンピュータを活用するなど、時代を先取りした投資手法を確立しました。
ハーバード大学卒業後は、NASAのシステムエンジニアを経て、現在はサンフランシスコのゴールデンゲート大学で金融・経済学の特別非常勤教授を務めています。