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【事例から学ぶ】好決算なのに株価が下落する理由|投資の知識
- 株価は将来の業績に先行する形で変動するので、好業績であっても成長率が鈍化したり、次期の業績が悪化しそうな場合は、いくら好決算が発表されても株価は下落してしまいます。
- 決算と株価の動きが異なる場合は、成長率が鈍化していないか、機関投資家の空売りで需給が悪化していないか、あるいは市況が悪化して将来業績に悪影響を及ぼすような情報が開示されていないか確認してみましょう。
- いずれにしても、良い材料なのに株価が下落したということはその後の相場が弱くなる兆しと言えます。株価の動きに注意しましょう。
そもそも株価は企業の将来業績に先行する形で変動する
1968年に発表されたBall and Brownの”An Empirical Evaluation of Accounting Income Numbers”という論文によって、年次決算報告書で予想外の利益を計上した企業(画像の赤枠部分)は、決算書が公表される前から好決算を織り込む形で株価が上昇し、反対に予想外の損失を計上した企業(青枠部分)は、決算発表前から悪材料を織り込む形で株価が下落していることが明らかにされています。
これは、年次決算報告書以外(例えば新聞やテレビのニュースなど)の情報がその都度織り込まれていくことで、株価が将来業績に先行する形で変動していることを示しています。
利益成長の鈍化によって株価は下落する
「ミネルヴィニの成長株投資法」では、成長の鈍化によって株価が下落した事例が紹介されています。1990年から1993年のバイコーのチャート(上の画像)を見ると、好業績が一服し、利益成長が鈍化する少し前から株価が急落しています。
つまり、第3ステージのEPS成長率+78%を達成した後の値動きを見れば明らかなように、「いくら好決算であったとしても企業の将来業績が悪化しそうな兆候があれば、株価は大きく下落してしまう」ということが分かります。
特に、成長株と言われるような業績が急速に伸びた企業や弱気相場に突入したときの先導株など、市場から過大評価されて株価が割高な水準まで押し上げられた銘柄にこのような傾向がみられます。急激に値を上げた株はその反動も大きくなるので注意が必要です。
【「ミネルヴィニの成長株投資法」では成長株投資についてより詳しく解説されています。是非ご一読ください!】
好決算なのに株価が下落した事例
①好決算でも利益成長が鈍化し、株価が下落した事例
AI inside(4488)
先ほどのミネルヴィニの成長株投資法の例でも見たように、日本の株式市場でも利益成長が鈍化すれば株価は下落するようです。
AI inside(4488)のチャートをみると、対前四半期増益率がピークに達した2021年3月期第2四半期決算以降、その後の業績不振を見越したように株価が急落していることが分かります。また、「大口販売先ライセンス不更新見込みに関するお知らせ」によって翌期以降の業績が悪化すると分かった途端、株価はさらに暴落しています。
AI insideが天井をつけた2020年11月には同社のPERは過去最高値の356.5倍に達しています。市場が同社の将来性を過大評価していただけに、期待が剥落した時の反動はかなり激しいものになりました。
②好決算でも将来業績に悪影響を与える情報が開示され、株価が下落した事例
セーフィー(4375)
次は、IPO直後の銘柄が初の決算開示で上方修正したにもかかわらず、将来業績への懸念から株価が下落してしまった例を紹介したいと思います。
セーフィー(4375)は2021年1月12日に2021年12月期第3四半期決算を発表しました。同社の業績は好調で、通期業績予想の上方修正も併せて発表。売上高を従来予想から3.7%上方修正(前期比+64.9%)し、営業利益をはじめ各利益項目の赤字幅も縮小させています。
しかし、通期業績予想の上方修正と同時に、一部商流で解約が相次いだことを理由にKPI指標である課金カメラ台数(期末時点の目標値)の下方修正を公表しました。監視カメラのクラウド録画サービスを主力とする同社にとって、課金カメラ台数の減少は将来業績の悪化を意味します。
決算明け後は上方修正よりもKPI指標の下方修正が嫌気されて、株価は上髭をつけて大きく下落。その後も下げ止まらず、翌月に入っても軟調な展開が続いています。
このセーフィーの事例は先ほどのAI insideの例と異なり、IPO直後の初めての決算開示で成長率が鈍化したかどうかはっきりと分かりません。そのような状態で通期業績を上方修正したにもかかわらず、KPI指標が下方修正されて成長期待が後退したことを理由に、株価は下落してしまいました。
KPI指標は将来業績に影響を与える指標の一つですが、それ自体が業績のすべてを表すわけではありません。それでも株価が下落したということは、Ball and Brown(1968)の論文が示しているように、もしかすると次の決算が期待外れ終わる「結果」を織り込もうとしているのかもしれません。
まとめ
好決算が発表されても株価が下落してしまうことは珍しくありません。
株価は将来の業績に先行する形で変動するので、好決算であっても成長率が鈍化したり、次期の業績が悪化しそうな場合は、いくら好業績であっても株価は下落してしまいます。
株価の動きがおかしいときは、企業の将来業績に悪影響を与えるような情報がないか調べてみましょう。もし企業業績に問題がないのであれば、機関投資家の空売りで需給の悪化していたり、景気(市況)の悪化を示唆しているのかもしれません。
いずれにしても、良い材料が出たにもかかわらず株価が下落したということは、その後の値動きも厳しいものになるでしょう。一部のポジションを調整したり、新規の買い注文を控えるなど、なんらかの対策が必要かもしれません。