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【日本の年金にも影響が…】恒大集団が倒産した場合の影響は?
- アシュモア・グループやブラック・ロックは恒大集団の債券を400億円以上の債券を保有していますが、これらの資産は既に投資家に販売されているため、資産運用会社に直接的なダメージはありません。
- ただし、アシュモア・グループは運用資産残高の0.4%を失うことになるので、まったくの無傷というわけではありません。また、今回の件をきっかけに新興国への投資が避けられるようになれば、新興国に特化した金融商品を販売する同社にとっては大きな痛手となるでしょう。
- 恒大集団の経営危機は2020年夏頃から噂されているため、日本で販売されている投資信託の中で、恒大集団の株や債券を組入れているものはほとんどありません。組入比率が最も高い投資信託でも、その組入比率はわずか1.65%にすぎません。
- 年金資産を運用する年金積立金管理運用独立行政法人は、2020年度末時点で恒大集団の債券を59億円、恒大集団の株式を27億円分保有しています。恒大集団が倒産すれば少なくとも86億円の資産が失われることになります。
- それでも、年金積立金管理運用独立行政法人の運用資産額は2021年度第1四半期末で191兆6,189億円ほどあるので、こちらも大きな心配は不要です。
- 最大の問題は中国国内にあります。234都市にまたがる798の開発プロジェクトをどう継続するか、開発プロジェクトに参加している会社への営業債務をどう処理するか、12万3276人の従業員への未払給与と再雇用先をどう確保するか、理財商品の購入者へはどのように対応するのか、恒大集団の負債総額は中国GDPの1.9%に達します。恒大集団の倒産は中国の歴史に残る惨事になるでしょう。
資産運用会社が恒大集団の債券を大量に保有していることが判明
2021年9月18日のブルームバーグのニュースでアシュモア・グループやブラックロックといった資産運用会社が恒大集団の債券を大量保有していることが報道されました。
その規模は、2021年6月末時点でアシュモア・グループが433.1百万ドル(1$=110円換算で約476.4億円)、ブラックロックが385百万ドル(約423.5億円)、UBSグループが275.7百万ドル(約303.2億円)、HSBCホールディングスが206.9百万ドル(約227.5億円)に達しています。
影響の大きい資産運用会社は?
アシュモア・グループには小さいながら打撃が…
報道の中で最も影響が大きいのがアシュモア・グループになります。アシュモア・グループはイギリスに本社を置く資産運用会社で、とりわけ新興国市場を中心とした金融商品を組成・販売しています。
運用資産残高が1000兆円を超えている業界最大手のブラック・ロックや100兆円を超えるUBSと比較すると、アシュモア・グループの資産運用残高は10兆円程度に過ぎません。仮に、恒大集団が倒産すれば、運用資産残高の0.4%の資産を失うことになります。
直接的な影響はないが…
同社の金融商品は投資家に販売されているので直接的なダメージアはありません。しかし、今回の件をきっかけに新興国への投資が避けられるようになれば、新興国投資を得意とするアシュモア・グループにとっては大きな痛手となるでしょう。
恒大集団の倒産によって日本は影響を受けるか?
大和アセットマネジメントの組入状況
大和アセットマネジメントは2021年9月16日に『「中国恒大集団(China Evergrande Group)」保有ファンドのお知らせ』というリリースを出しました。それによると、大和アセットマネジメントが公募した投資信託のうち、恒大集団の株や債券を保有している投資信託は全部で12ファンド存在しているようです。
ほとんどの投資信託は恒大集団の組入比率が0.00%~0.04%にすぎず、大きな問題はなありません。ただし、「ダイワ/フィデリティ・アジア3資産分散ファンド」をはじめとする4種類の投資信託は組入比率が1.2%~1.65%と少し高めになっています。
投資信託は長期投資を前提としているので、パニックになってすぐに解約する必要はありません。そのまま継続保有しても良いと思います。なお余談ですが、毎月分配型&通貨選択型の投資信託はそもそも商品の質が悪いので解約すべきです。
その他の投資信託の投資家の組入状況
大和アセットマネジメント以外の投資信託をいくつか調べてみましたが、恒大集団を組み入れている投資信託をみつけられませんでした。恒大集団の株価は20年下期から下落し、早くから倒産が危惧されていたので、既に投資対象から外されたのだと思います。
日本の投資家に直接的な影響はない
記事にあったブラック・ロックやUBSといった資産運用会社も、保有する恒大集団の債券額は大きいですが、運用資産額から見れば組入比率はごくわずかです。多くの投資信託で組入比率が極めて低くなっていることから、サブプライム・ローン問題のような大きな騒動に発展することはないでしょう。
日本の年金にも影響が?
年金積立金管理運用独立行政法人は86億円程度の損失が発生する恐れ
恒大集団が倒産すれば、日本の年金にも影響が及びます。
厚生年金と国民年金を管理運用する年金積立金管理運用独立行政法人は、2020年度末時点で恒大集団の債券を59億円分保有しています。さらに、恒大集団の株式を27億円分保有していることから、恒大集団が倒産すれば少なくとも86億円の資産が失われることになります。
子会社株でも9億円ほど損失が出ている
恒大集団の株式とは別に、恒大集団の子会社である中国恒大新能源汽車集団の株式も9億円ほど保有しています。中国恒大新能源汽車集団は病院や介護事業を行うヘルスマネジメント事業と電気自動車の製造販売を行う新エネルギー車事業を展開しており、一見すると親会社が倒産したからと言って直ちに経営危機になるとは考えにくい会社です。
しかし、親会社である恒大集団が債務圧縮のために持分の売却を計画しており、株価が大きく下落しています。加えて、電気自動車事業への投資で赤字幅が拡大していることもあり、現在の株価は上場来最安値水準にまで落ち込んでいます。現在の時価は6000万円程度なので、ほぼ全額が含み損になっている状態です。
それでも大きな心配は不要
年金積立金管理運用独立行政法人の運用資産額は2021年度第1四半期末で191兆6,189億円に達しているので、恒大集団やその子会社の中国恒大新能源汽車集団が倒産しても大きな影響はありません。両者を併せても95億円程度の損失で済むと考えられます。
最大の問題は中国国内に…。中国発の恐慌に?
中国国内の企業に広範囲な影響が…
恒大集団が海外向けに発行したドル建て債券は2兆円程度と言われています。ほとんどが低格付けなのでまともな金融機関は保有していません。仮に保有していても、広く分散されて購入されているので、直接的に大きな影響がでるわけではなさそうです。ですが、最大の問題は中国国内にあります。
恒大集団は中国GDPの1.9%に相当する1兆9665億元(約33兆4305億円)の負債を抱えています。そのうち、国内の金融機関からの借り入れは6934億元(約1兆1787億円)あり、128行を超える銀行と121社を超えるノンバンクから資金を借り入れていると言われています。したがって、恒大集団が破綻すれば中国国内の金融機関に広範囲な影響を与えることになります。
さらに、恒大集団が開発している798の不動産開発プロジェクトをどう継続していくのか、滞納している営業債権(取引先への債務)をどのように処理するのかなど、問題が山積しています。中国企業に甚大な被害が出ることは間違いありません。
マンションの購入者だけでなく、理財商品を通して多くの国民が被害に
破綻の影響は金融機関や一般企業だけにとどまらず、中国国民にも及びます。恒大集団はこれまで最大で12%の利回りを謳う理財商品(資産運用商品)を7万人以上に販売してきました。この金融商品を販売することで得られた資金は運転資金として流用されており、何の資産的裏付けもありません。
購入した人の多くが同社の従業員とその家族と言われているので、恒大集団の従業員12万3276人は給与の未払い問題だけでなく、購入した理財商品による被害も受けることになります。このように、恒大集団の破綻の影響は一般国民にも及びます。
まとめ
直接的な影響は出ない
アシュモア・グループやブラックロックといった資産運用会社が恒大集団の債券を大量保有していることが報道されましたが、既に一般の投資家や機関投資家に広く販売されているので、資産運用会社が直接的に大きな影響を受けることはなさそうです。
また、日本の投資信託の中で恒大集団を組み入れている投資信託はほとんどありませんでした。恒大集団の株価は20年下期から下落し、早くから倒産が危惧されていたので、既に投資対象から外されたのだと思います。組入比率が最大の投資信託でもわずか1.65%に過ぎないので、問題はないでしょう。
年金積立金管理運用独立行政法人の運用資産額は2021年度第1四半期末で191兆6,189億円に達しているので、恒大集団やその子会社の中国恒大新能源汽車集団が倒産しても大きな影響はありません。両者を併せても95億円程度の損失で済むと考えられます。
このように、恒大集団のドル建て債券は総額2兆円程度と少なく、倒産する危険性が2020年夏ごろから広く伝わっていたので、多くの機関投資家は被害を最小限にとどめているようです。
最大の問題は中国国内に…。中国発の恐慌に?
最大の問題は中国国内にあります。恒大集団は多くの金融機関から資金を借り入れ、中国国内に798の不動産開発プロジェクトを抱えています。関連する銀行や企業は数多くあり、倒産による被害は甚大です。
また、同社の従業員だけでなく、理財商品の販売を通して一般の人にも計り知れない被害を与える危険性があります。恒大集団の倒産は中国の歴史に残る惨事になるでしょう。