目次
中国で住宅ローンの返済を拒否する運動が活発に。金融危機は起きるか?
- 中国では住宅ローンを組んで住宅を購入したものの物件が未完成だとしてローン返済を拒む借り手が増えており、こうした運動(we need home)が2022年7月20日時点で112都市にまたがる319件のプロジェクトで発生しています。
- この運動によって生じた延滞債権額は今のところ21億1000万元(1元=20.5円で約432億5500万円)に過ぎないとされています。しかし、中国の銀行の不動産セクター向け融資残高は2020年末時点で49.58兆元(およそ1016兆3900億円)、そのうち個人向け住宅ローンの融資残高は34.44兆元(およそ706兆200億円)に達しており、中国経済に占める影響は小さくありません。今後の動向には注意が必要です。
中国で住宅ローンの支払いを拒否する運動が活発に
世界2位の経済大国の約4分の1を占める業界で今週、ストレスの兆しが強まった。住宅ローンを組んで住宅を購入したものの物件が未完成だとしてローン返済を拒む借り手が増えており、中国当局が銀行側とこの問題を話し合うため緊急会合を開いた。事情に詳しい関係者が明らかにした。(中略)野村の陸挺氏らエコノミストは、中国の不動産開発会社は2013-20年に事前販売した住宅の約60%しか引き渡していないと推計。その間、中国の住宅ローンは26兆3000億元(約539兆円)増加した。 2022年7月15日ブルームバーグの報道①より
「前回の記事」でお伝えしたように、中国では不動産市況が低迷したことで、不動産開発会社の債務不履行が相次いで発生しました。その結果、不動産セクターへの資金流入が細り、建設プロジェクトの多くが頓挫する事態となっています。
中国では不動産の事前販売が一般的であり、住宅が完成する前からローンを組んで支払いを行う必要があります。しかし、建設工事の多くがストップしたことで、不動産の引き渡しがされないままローンの支払いを行わなければならない人が急増。そしてついに、住宅ローンの支払いをボイコットする人が出てきてしまいました。
現在、住宅ローンの支払いをボイコットする運動(we need home)は、2022年7月20日時点で112都市にまたがる319件のプロジェクトで発生しています。これがどこまで波及していくのかは分かりませんが、購入者が住宅ローンの支払いを停止することで金融機関の収益が落ち込み、信用不安から金融危機が起こる可能性もあります。
金融危機は起こるのか?
ブルームバーグの報道によれば、住宅ローン支払いを拒否する運動によって発生した延滞債権額は今のところ21億1000万元(1元=20.5円で約432億5500万円)に過ぎないとされています。しかし、本当にそれだけで収まるのか疑問が残ります。
中国国家統計局のデータによると、2022年6月末の時点で599,429万平方メートル(前年比:△2.9%)の住宅が建設中であり、そのうち完工した工事はわずか20,858万平方メートル(前年比:△20.6%)分に過ぎません。新規に建設を開始する物件を0とし、このままのペースで物件が完成していくと仮定しても、実に28.7年もの年月がかかります。
竣工する工事が減ってきていることや、恒大集団、世茂集団、新力控股(集団)などの大手不動産開発会社が次々と債務不履行を起こしていることを考えれば、延滞債権が21億1000万元にとどまるとは到底思えません。
中国人民銀行のレポート(China Financial Stability Report 2021)によると、中国では不動産セクター向けの融資が増加しており、2020年末時点で49.58兆元(およそ1016兆3900億円)もの融資残高があります。そのうち個人向け住宅ローンの融資残高は34.44兆元(およそ706兆200億円)に達しており、中国経済に占める影響は小さくありません。
住宅ローンの支払い拒否問題がどれほど拡大するかはわかりませんが、今後の動向には注意が必要です。
参考記事
配信元 | 配信日 | 記事タイトル |
ブルームバーグ① | 2022年7月15日 | 「中国不動産危機、悪化の一途-住宅ローン返済拒否が銀行直撃も」 |
ブルームバーグ② | 2022年7月20日 | 「中国ミドルクラスの反乱、持ち家の不良資産化広がれば「政治危機」も」 |
The People’s Bank of China | 2021年9月10日 | “China Financial Stability Report 2021” |