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投資資金が500万円を超える方にお勧めな本「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」
- 「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」はリスク管理の大切さを教えてくれる本です。具体的にはポジションサイズとボラティリティをコントロールすることで、リスク・リターンのバランスを改善し、同時にパフォーマンスの向上を目指しています。
- 「20銘柄程度の分散投資を行い、各ポジションのリスクを総資産の1%以内に抑える」ことが基本であるため、一定の投資資金(少なくとも500万円以上)が無ければこの本で学んだことを実践するのは難しいと思われます。ただし、リスク管理の考え方はすごく参考になるので、ぜひご一読ください!
「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」のおすすめポイント
もしポジションサイズが適切でないと、その影響で規律を守れなくなる。ポジションサイズが大きすぎると、トレード口座の残高が急激に上下したときに、より興奮したり、イライラしたり、感情的になったり、消耗したりすることは、私自身も経験している。その一方で、ポジションサイズが小さすぎると、関心が薄くなったり、退屈したり、雑になったり、リターンが低くなったりする。トレードの利益は、売値と買値の差をポジションサイズで掛けた金額になる。式の前半(売値と買値の差)ばかりに注目して、後半(ポジションサイズ)を無視するのは全く意味がない。 トム・バッソ. トレードで成功するための「聖杯」はポジションサイズ ――トム・バッソが教えるその理由とその方法 (p.27). パンローリング株式会社. Kindle版
「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」のおすすめポイントはリスク管理の大切さを学べる点にあります。
著者のトム・バッソ氏はポジションサイズについて「大きな割合を一つのポジションに配分していれば大きく逆行してポートフォリオ(複数の銘柄の組み合わせたもの)に大きな損失を与える可能性がある。しかし、(略)小さい割合しか配分しなければ、そのポジションがポートフォリオのリターンに意味のある影響を与える可能性は低い。」とし、各投資家の投資戦略(リスク許容量)に応じたポジションサイズを設定すべきだと主張しています。
また、その上で単に適切な損切注文やポジションサイズを設定するだけではなく、「ボラティリティは価格が順行すればポートフォリオを大きく助けてくれるが、逆行すれば断腸の苦しみを味わうかもしれない」ので、ATRといった指標を使って市場のボラティリティにも注意を払うべきだと述べています。
リスク管理を徹底した場合、パフォーマンスはどう改善するのでしょうか?上のグラフは単純なトレンドフォローモデルの売買エンジンを用いて19の銘柄に11年間投資した場合のパフォーマンスカーブを表しています。*モデルの詳細については明らかにされていませんが、トレンドフォロー型ということなので例えば短期移動平均線が長期移動平均線を上抜けば「買い」・下抜けば「売る」(株価が上がったら買い・下がったら売る)といったものではないかと思います。
画像上部のリスクを考慮していないポートフォリオのパフォーマンスカーブと下部のリスク考慮済み*のそれとを比較すると、下のグラフは価値が2.77%以上増え、リスク・リターン比率が改善し、最長ドローダウン(資産の下落率:ここでは下落期間)がかなり短くなり、最大ドローダウンが2%減っています。このことから、リスク管理の効果が絶大であることが良く分かります。*具体的にはリスクとボラティリティの配分を0.5%で仕掛け、トレード中はリスクを2.2%、ボラティリティを0.8%に制限し、トレード中のポートフォリオ全体のリスクは12.5%に制限している。
本書を読めば、ポートフォリオのポジションサイズやボラティリティに気を配り、リスクを管理することの必要性や重要性を十分に学ぶことができるでしょう。
「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」のマイナスポイント
「トレード資金が5000ドルしかなく、分散のために20の銘柄をトレードしているときに、リスク配分が1%とか、ボラティリティ配分が0.75%でポジションサイズを計算すると、先物ならば0枚、株でも非常に少ない株数になってしまう。そのようなときはどうすればよいでしょうか」。この質問に簡単な答えはなく、唯一の合理的な方法はどうにかしてトレード資金をふやすことしかない。 トム・バッソ. トレードで成功するための「聖杯」はポジションサイズ ――トム・バッソが教えるその理由とその方法 (p.64). パンローリング株式会社. Kindle版
一方、本書のマイナスポイントは、「資金が少ない投資家にとっては実践しにくい」という点にあります。そもそも、トレード資金が不足している状態だと分散投資が難しく、ポジションサイズを自由にコントロールすることができません。
この点に関し、著者は①リスクを自覚したうえで本来のサイズよりも大きいサイズでトレードする、②株価の安い銘柄や少ない証拠金で取引できる先物をトレードする、➂投資時間が長くなればなるほど単位当たりのリスクが高くなるので、時間枠を短くいてトレードを行うことを推奨しています。
しかし、現在日本取引所グループは望ましい投資単位の水準を5万円~50万円に設定しているため、20銘柄に分散投資しようとすれば最低でも100万~1,000万円の資金が必要になります。1,000万円という大金は無理にしても、少なくとも資産額が500万円を超えない限り本書で学んだ知識を実践することはできません。資金に余裕がない方にとってはやはり本書を読む必要性が乏しいと感じざるをえません。
「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」のおすすめ度は☆3つ
「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」は投資におけるリスク管理の必要性や重要性を学ぶことができる本です。ここではその手法の核心部分については触れられませんが、著書の中では具体的な方法がしっかりと紹介されています。
投資関連書籍の中ではポジションサイズやボラティリティについて解説している本は珍しく、貴重な一冊となっています。一読する価値は十分にあるでしょう。ただし、投資資金少ない状態だと分散投資が難しく、本書の知識を実行に移すことができません。そうした意味では投資資金が500万円を超えるような人にしか役に立たず、読む人を選ぶ本に成り下がってしまっています。万人に受け入れられる内容ではないため、この本の評価は「おすすめ度☆3つ」にさせて頂きました。
なお、資産規模が大きければ大きい程リスク管理は大切になってきます。資産額が500万円を超えるような方はぜひご一読ください!
「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」の著書について
「トレードで成功するための『聖杯』はポジションサイズ」の著書はトム・バッソ(Tom Basso)氏です。同氏が投資の世界に足を踏み入れたのは12歳の時で、新聞配達のアルバイト代で投資信託を買ったのがきっかけでした。以来、1974年にクラークソン・カレッジ・オブ・テクノロジー(現クラークソン大学)で化学エンジニアリングを学び、卒業後はモンサント社(Monsanto Company:後にバイエル (Bayer AG)に買収 )に勤める傍ら、本格的に株式投資にのめり込んでいきます。
そして、1980年にバッソは二人の仲間とともにケネディー・キャピタル・マネジメントを創業しますが、二~三年後には自分の持ち分をすべて売却。1984年に自身の会社トレンドスタット・キャピタル・マネジメント(Trendstat Capital Management)を創業しました。同社は株と投資信託と先物のトレードを中心にした取引を行っていましたが、取引量の増加に伴ってFXのプログラムも加わり、ピーク時には世界中の顧客から預かった約6億ドルの資産を運用するほどにまで成長します。
トム・バッソは自身の会社を経営するだけでなく、数学とコンピュータの才能を生かして全米先物協会の理事として電子報告や注文フローや規制データの基準を導入して業界の自動化を進めた他、ナショナル・アソシエーション・オブ・アクティブ・インベストメント・マネジャーズ(NAAIM)の理事やクリーマイザー・インク(アリゾナ州にあるコーヒークリームサーバーのトップメーカー)の取締役やランプ・テクノロジーズ(テキサス州にある先物・ヘッジファンド業界のバックオフィスのアウトソーシングに特化した会社)の経営委員を務めるなど多方面で活躍しました。
2003年にトレーダーを引退してからは個人投資家のためのサイトを立ち上げ、投資家が自分の戦略を開発できるような学びの場を提供しています。また、従前から執筆活動にも力を入れており、本書以外にも「トム・バッソの禅トレード」や「Successful Traders Size Their Positions – Why and How? (共著)」といった本を出版したり、インタビュイーとして「新マーケットの魔術師―米トップトレーダーたちが語る成功の秘密」にも登場するなど、投資教育に力を注いでいます。
【ジャック・D・シュワッガー氏の「新マーケットの魔術師」も名著なのでこちらもぜひご一読ください!】