ロシアに対する経済制裁の効果は?

ロシアに対する経済制裁の効果は?

ロシアに対する経済制裁の効果は?

この記事のポイント
  • 2022年2月24日にウクライナ侵攻が開始されて以来、西側諸国はロシアに対する経済制裁を強化してきましたが、ロシア当局の通貨防衛策によってルーブル高が続いています。一見すると経済制裁の効果が無かったように思えますが、ロシアの小売商品売上高が大きく落ち込み、2023年の経済成長率見通しも侵攻前の+2.1%予想から△2.3%へ転落するなど、着実にロシアの継戦能力に大きな打撃を与えています。
  • 一方、ロシアの天然ガスに大きく依存する欧州経済もまた深刻なダメージを受けています。EU加盟27カ国の税金を除いた実質的な電気料金は2008年上期の1kWh あたり0.1103ユーロから0.1932ユーロへと急騰しており、インフレが加速しています。2023年の経済成長見通しも急速なインフレを背景に、1月の+2.6%から10月+1.1%へ減速する予測となっているため、ロシアに対する経済制裁の強化・長期化は避けなければなりません。一刻も早い終戦を祈るばかりです。

ロシアに対する経済制裁には一定の効果がある

経済制裁に反してルーブル高が続くが…

「EUの対ロ追加経済制裁についてのリリース」欧州理事会・欧州連合理事会HPより

「EUの対ロ追加経済制裁についてのリリース」欧州理事会・欧州連合理事会HPより(画像はすべてクリックすると拡大します)

2022年2月24日にウクライナ侵攻が開始されて以来、西側諸国はロシアに対する経済制裁を強化してきました。貿易面に関して言えば、デュアルユース(軍事転用可能な)品や最先端技術製品(半導体など)の輸出停止。金融制裁としては、プーチン大統領をはじめとする政権幹部の個人資産や外貨準備の凍結、一部金融機関の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除など、前例のない厳しい措置を講じています。*制裁の詳細については過去記事(「ロシアに対する経済制裁で被害を受ける日本企業は?」)とご確認ください!

「ドルルーブルの週足チャート」investing.comより

「ドルルーブルの週足チャート(2022年11月23日時点)」investing.comより(画像はすべてクリックすると拡大します)

しかし、現実には予想外のルーブル高が続いています。ロシア当局がルーブルを買い支える(通貨防衛の)ために、天然ガスの支払いをルーブルで求めたり、国内企業に輸出代金の80%を3日以内にルーブルに交換するよう義務付けたりしたことがその要因です。

西側諸国にとってみれば、ルーブル安に誘導することでロシア国内の輸入品の価格を高騰させ、インフレ(とそれに伴うパニック・厭戦ムード)を引き起こすことが狙いでしたが、蓋をあけると完全な空振りに終わった形です。

MEMO
ウクライナ侵攻が本格化した2022年3月上旬に、ルーブル相場は1ドル=121.21ルーブルの安値をつけました。それによってロシア国内の物価は上昇。2022年2月から3月半ばにかけて、グラニュー糖の価格が+30.8%、トマトが+26.7%、テレビが+25.2%、輸入乗用車(新車)が19.6%上昇しました。当初は経済制裁の効果がみられたものの、前述したロシアによる買い支え策と資源高による経常収支の改善でルーブル相場が回復。制裁が躓く結果になりました。

ただし、ロシアも苦しい状況に…

「ロシアの主要経済指標の推移」ジェトロビジネス短信資料より

「ロシアの主要経済指標の推移」ジェトロビジネス短信資料より(画像はすべてクリックすると拡大します)

ただし、経済制裁が完全に失敗に終わったかというと、そういうわけでもありません。2022年11月に発表されたロシア連邦国家統計局のデータによると、2022年第3四半期(7~9月)の実質GDP成長率が△4.0%と前四半期に引き続いてマイナス成長に転落していることが分かります。

特に、半導体などの最先端技術品の輸出規制によってテレビや自動車などの販売価格が上昇したことから、小売商品売上高が大きく落ち込んでいます。同指標は経済制裁前の2022年第1四半期+3.5%から第2四半期は△9.8%、第3四半期は△9.1%と2四半期連続で大幅減に陥っています。

MEMO
ロシアはウクライナ侵攻後に自らの手の内を隠すことを目的に、経済指標の大部分を非公開にすると発表しました。そのため、輸出入、債務、原油生産量、銀行、航空会社や空港の利用者などの細かい統計データが確認できていません。実際は上記データよりもさらに深刻な事態になっている可能性があります。
「世界経済見通し(WEO)2022年10月」IMF資料より

「世界経済見通し(WEO)2022年10月」IMF資料より(画像はすべてクリックすると拡大します)

また、国際通貨基金(IMF)による経済成長率見通しも2023年には△2.3%になると予測されており、経済制裁がロシア経済に少なからず打撃を与えていることが分かります。

ロシアの継戦能力は目に見えて低下

「ウクライナへの侵攻状況(左:2022年3月2日、右:2022年11月23日)」Institute-for-the-Study-of-Warより

「ウクライナへの侵攻状況(左:2022年3月2日*なお青い線は筆者が想定していたロシア軍の予想占領地域、右:2022年11月23日)」Institute for the Study of Warより(画像はすべてクリックすると拡大します)

当初の目論見が完全に外れ、ルーブル安による反戦機運を高めることには失敗しましたが、ロシア経済の足を引っ張ることで継戦能力を削ぐことには成功しているようです。西側諸国の軍事支援と経済制裁が功を奏し、2022年11月末のロシア軍占領地域は経済制裁が発表された2022年3月初頭と比較して明らかに後退しています。

各メディアの報道からは人的資源(兵員)、物的資源(兵站・軍備)ともに枯渇している様子が伺えるので、ロシアに対する経済制裁には一定の効果があったと言えるでしょう。

ただし、西側諸国も自縄自縛

ロシア産天然ガスの輸入停止によって電気料金が高騰

「EU加盟27カ国の電源構成と天然ガスの輸入シェア」Business-Insider-Japanと野村アセットマネジメントより

「EU加盟27カ国の電源構成と天然ガスの輸入シェア」Business Insider Japanと野村アセットマネジメントより(画像はすべてクリックすると拡大します)

ただし、ロシアへの経済制裁を強化したことで、西側諸国も大きなダメージを負っています。EUは電源のおよそ20%を天然ガスによる発電で賄っており、さらにその燃料の37.5%をロシア産の天然ガスが占めています。西側諸国が経済制裁の一環としてロシア産天然ガスの原則輸入禁止を決定したことで、自らエネルギー不足を招く結果となりました。

「EUの家庭用電気料金の推移(2008年~2022年上半期)」EUROSTATより

「EUの家庭用電気料金の推移(2008年~2022年上半期)」EUROSTATより(画像はすべてクリックすると拡大します)

電力料金の推移をみればその影響の大きさが分かります。EU統計局(EUROSTAT)のデータによると、2008年上期の電気料金(税金込み)は1kWh あたり0.1604ユーロでしたが、2022年上期には1kWh あたり0.2525ユーロにまで上昇しています。

また、デンマークなどの一部の国では高騰する電気代に対する経済支援策として、電力に係る税金を引き下げています。そのため、税金を除いた実質的な電気料金は2008年上期の1kWh あたり0.1103ユーロから0.1932ユーロへと急騰しており、税金込みの上昇幅よりも勾配が急になっています。

経済制裁によるインフレで世界的に景気が低迷

「世界経済見通し成長率予測の変化(左:2022年1月、右:2022年10月)」国際通貨基金(IMF)ホームページより

「世界経済見通し成長率予測の変化(左:2022年1月、右:2022年10月)」国際通貨基金(IMF)ホームページより(画像はすべてクリックすると拡大します)

こうしたインフレは経済成長の重しとなっています。国際通貨基金の2023年の世界GDP成長率予測の見通しはウクライナ侵攻前の2022年1月の+3.8%から2022年10月には+2.7%へと減少しています。戦争の長期化によってロシア(2023年の成長率見通しは1月+2.1%から10月は△2.3%)だけでなく、先進国(同1月+2.6%から10月+1.1%)も苦境に立たされています。

経済制裁の強化や長期化はロシアだけでなく、西側諸国にも大きな重荷になります。一刻も早い戦争の終結を祈るばかりです。

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