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万科企業(China Vanke Co., Ltd.)もデフォルトに?決算書を読む。
- 万科企業(China Vanke Co., Ltd.)は1984年に王石氏によって設立された中国の大手不動産デベロッパーです。優良企業とされており、「三条紅線」が求める3つの基準に合格しています。
- しかし、万科企業は2021年12月期決算で大幅な減益に陥っています。手許現金が急減し、キャッシュ・フローも赤字が続いているので、デフォルトの危機と言っても過言ではありません。同社の動向には注意しましょう。
万科企業とは?
万科企業(China Vanke Co., Ltd.)は中国広東省深圳市に本社を置く中国の大手不動産デベロッパーです。1984年に王石氏によって設立された同社は中国の不動産ブームに乗って飛躍的な成長を遂げました。広東省、上海、北京、成都などの大都市でマンションや住宅を建設販売する他、2013年にはサンフランシスコ、2014年にはニューヨークのマンハッタンで高層マンションプロジェクトを手がけるなど、海外市場にも積極的に進出しています。
三条紅線によって苦しむ不動産開発会社
三条紅線とは?
中国政府は不動産バブルを抑制するため2020年8月に不動産開発会社に対する融資規制「三条紅線」を導入しました。
その内容は、3つの財務基準(①竣工前販売代金を除いた資産負債比率が70%を超える、②純負債自己資本比率が100を超える、➂現預金対短期有利子負債の比率が1を下回る)の順守状況によって有利子負債の増加率(金融機関の融資額)が制限されるというものです。
これまで、中国の不動産価格が長年にわたって値上がりを続けていたことから、不動産開発会社の多くが有利子負債を積極的に活用して規模を拡大させてきました。しかし、この突然の発表によって歯車が逆回転し、恒大集団をはじめ、世茂集団、中梁控股集団など不動産会社が相次いでデフォルト(債務不履行)を起こす事態となりました。
三条紅線と万科企業
万科企業は不動産開発会社の中でも健全な財務体質を維持しており、今のところは「三条紅線」が求める3つの基準に合格しています。ただ、規制の導入後から資金難に陥った多くの不動産ディベロッパーが保有資産の売却に走っており、不動産市況が急速に冷え込んでいます。万科企業が公表した2021年12月期の決算書にも怪しい数字が並んでおり、デフォルトの一歩手前という状態です。
万科企業の2021年12月期決算とその問題点
①前期比で大幅な減益に陥る
万科企業は前期比で大幅な減益に陥っています。
2022年3月30日に発表された2021年12月期決算は、売上高が前期比+8.1%の452,797百万元(1ドル=20.5円で約9兆2,823億円)、純利益が前期比△45.7%の22,524百万元(およそ4,617億円)という結果でした。売上は好調だったものの、開発事業の粗利率の低下や投資事業の減少によって、粗利益高以下の利益項目はすべて大幅に減少しています。
前回の記事「中国の不動産市況は引き続き低迷。衝撃に備えよ。」や「中国で住宅ローンの返済を拒否する運動が活発に。金融危機は起きるか?」でお伝えしたように、2022年に入ってから中国の不動産市況は深刻な状態にあります。万科企業の2022年12月期決算は赤字に転落するなど、さらに悲惨なものになっているはずです。
②手許現金が急減
万科集団の手許現金が急減している点も問題です。
同社の2021年12月期の貸借対照表をみると、手許現金が前期比△24.2%の140,708百万元(およそ2兆8,845億円)と大きく減っていることが分かります。保有金額だけをみればかなりの資産を有しているように見えますが、同社は541,059百万元(およそ11兆0,917億円)の買掛金及びその他の債務を抱えているので、財政余力は実質的にほとんどありません。
また、万科企業は借入コストとして2021年の1年間で13,450百万元(2,757億円)の利息を支払っています。借入金利は4.4%(2022年7月時点で中国の1年物の最優遇貸出金利は3.70%)と中国企業にしてはかなり低めですが、2021年12月期の純利益率が4.97%しかないのでその負担は決して軽くありません。万科集団はデフォルトの危機にあると言っても過言ではありません。
➂キャッシュ・フロー計算書からも資金繰りの厳しさが伺える
万科企業のキャッシュ・フロー計算書をみても資金繰りの厳しさが伺えます。
同社の2021年12月期の営業キャッシュ・フローは純利益が大きく減少したことでわずか4,113百万元(およそ843億円)しかありません。一方、同社は前期より控えてはいるものの26,280百万元(5,388億円)の投資を行い、負債の返済に23,103百万元(およそ4,736億円)を費やしています。結果として、前節で見たように45,271百万元(およそ9,281億円)もの現金を失っています。
2022年に入ってから中国の不動産市況が急激に悪化していること、焦げ付きを恐れて金融機関が不動産開発会社向けの融資を絞っていることを踏まえれば、今後の資金繰りも引き続き難しくなりそうです。万科企業も例外ではありません。デフォルトの危険性はかなり高いでしょう。