目次
上海ロックダウンで中国の小売売上高が大幅減!影響を受ける日本企業は?
- 上海ロックダウンが依然として解除されず、混迷を深めています。大手企業の工場などの輸出に関係した企業は操業再開しつつあるものの、小売店などの商業活動は未だ厳しい規制が続いています。上海市当局は6月中の正常化を目指すとしていますが、感染者数が高止まりしており、先行きは不透明です。
- 上海市は中国のGDPの3.8%を占めており、中国経済に与えるインパクトは計り知れません。上海ロックダウンの影響で、4月の中国の小売売上高は2兆9,483億元(前年比△11.1%)に急減しています。
- その影響は中国に進出している日本企業にも及んでいます。資生堂は中国事業で売上高の20%超を稼いでいますが、中国の4月の化粧品の小売売上高は前年比△22.3%と厳しい数字となっています。下方修正が行われる可能性があります。
- この他にも、ファーストリテイリングや良品計画などの中国依存度が高い企業には注意が必要です。また、中野冷機は上海子会社の決算手続きに遅延が生じたため、決算発表を延期しています。可能性は低いですが、粉飾や業績悪化の可能性も懸念されるので、投資には注意が必要です。
上海ロックダウンの現状は?
オミクロン株の蔓延によって新型コロナウイルスの感染者数が急増したため、上海市当局は2022年3月28日から大規模なロックダウン(都市封鎖)に踏み切りました。
当初は市中心部を流れる黄浦江を境に、東部は3月28日~4月1日、西部は4月1~5日の96時間ずつ封鎖する予定でしたが、感染者数の収束が見込めないことから封鎖期間をずるずると延長。5月16日の会見で、6月中には経済活動の正常化を目指す(封鎖を解除する)方針だと明らかにしています。
ただし、上海市当局が依然としてゼロコロナ政策を堅持し、リスクコントロールを行って全面的なコロナ抑制策を実施すると表明しているため、本当に6月中にロックダウンが解除されるかは不透明な状況です。上の画像をみれば分かるように、感染者数は落ち着きを取り戻しつつあるものの、依然として高止まりしています。個人的な見解ですが、6月の解除は部分解除にとどまるのではないかと考えています。
上海ロックダウンの影響で中国の小売売上高が大幅減!
上海市は中国GDPの3.8%を占める巨大都市
先の見通せない状態が続く上海ロックダウンですが、徐々に中国経済全体に悪影響を及ぼしつつあります。上海市は中国のGDPのおよそ3.8%(2021年時点)を占めており、その規模は4兆3,215億元(1元=19円で約82兆1085億円)に達しています。
中国の小売売上高は大幅減
工業については、4月半ば頃には集積回路、自動車製造、装備製造、バイオ医薬など重点産業666社をホワイトリスト重点企業に位置づけ、該当企業の生産再開を優先的に進めていましたが、小売業に関しては5月16日に一部店舗で再開されたばかりです。そのため、上海ロックダウンは特に中国の商業活動にとって大きな痛手となっています。
小売売上高は前年半ば頃より低調でしたが、上海ロックダウンの影響が深刻化した22年4月に入ってから2兆9,483億元(前年比△11.1%)に急減しています。事業所在地別にみると、4月の都市の小売売上高は2兆5,637億元(前年比△11.3%)に落ち込んだのに対し、地方の小売売上高は3,846億元(前年比△9.8%)にとどまっており、上海ロックダウンの影響の大きさが伺えます。
5月以降の統計データがそのような数字になるかは分かりませんが、商業活動の正常化が遅れていることから引き続き厳しい数字が並ぶのではないかと考えています。
上海ロックダウンの影響を強く受けた消費財(品目)は?
上海ロックダウンの影響を強く受けた消費財(品目)は、①衣料品・・・4月の小売売上高791億元(前年比△22.8%、1~4月累計△6.0%)、②化粧品・・・同214億元(前年比△22.3%、1~4月累計△3.6%)、➂家具・・・同111億元(前年比△14.0%、1~4月累計△8.9%)、自動車・・・同2567億元(前年比△31.6%、1~4月累計△8.4%)となっています。
食料品や飲料などの必需品の小売売上高(4月単月)が前年比+10.0%、+6.0%とそれぞれ増加しているので、特に消費財の中でも長期の使用に耐えられる家具や自動車などの耐久消費財や、外出制限で不要になった化粧品などへの需要が減ったようです。
上海ロックダウンの影響を受ける日本企業は?
資生堂(4911)
資生堂は2022年5月12日の第1四半期決算で、中国事業の売上高が現地通貨ベースで前年比△ 28.5%、円換算後では前年比△20.6%の519億円になった(前年度に譲渡したパーソナルケア事業の影響を除けば、実質ベースで前年比△14.4%の減収になった)と発表しました。
また、コア営業損失は売上高が減少したこと、持続的成長に向けたマーケティング投資を継続したことを理由に、28億円(前年比より49億円の悪化)の赤字に転落しています。
資生堂の中国事業は売上高の20%超を占めています。上海ロックダウンの影響が4月以降に反映されるので、第2四半期も引き続き苦戦が予想されます。資生堂は今のところ通期業績予想の修正に踏み切っていないので、場合によっては今後下方修正が発表される可能性があります。資生堂に投資されている方は特に注意が必要です。
ファーストリテイリング(9983)
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、2022年4月14日の22年8月期第2四半期の決算発表で、中国事業の売上収益が3,067億円(前年比△1.2%)に達したことを明らかにしました。同社は減収の理由として、好調だった前期の反動、ロックダウンによる生産・物流の遅延、気温が高かったことを指摘しています。
ファーストリテイリングの売上収益の25.2%を中国事業が占めているので、上海ロックダウンの影響が下期から表面化します。ただし、同社はロックダウンの影響を織り込みながらも、円安で推移していることを理由に通期業績予想を上方修正しています。資生堂とは異なり影響は限定的かもしれません。
良品計画(7453)
良品計画は2022年4月14日の22年8月期上期決算で、中国事業の営業収益が前年比+100.7%(現地通貨ベースでEC売上を含む)の454億円になったと発表しました。増収の理由として、EC売上が好調だったこと、2月末の店舗数が+17店舗の316店舗で着地したことを挙げています。
良品計画の中国事業は一見すると問題が無いように思えますが、同社はロックダウンによる業績悪化を理由に、中国を含む東アジア事業の通期業績予想を営業収益を35億円、営業利益を24億円(全体では営業収益100億円、営業利益70億円)引き下げています。
実際、4月の月次概況(業績速報)をみると、中国事業の営業収益が前年同月比67.8%に落ち込んでいることが分かります。中国を除いた他地域(特に東南アジア・オセアニア事業や欧米事業)が順調に伸びているので大丈夫だとは思いますが、良品計画の営業収益の18.6%を中国事業が占めています。もし上海ロックダウンの解除が延長されれば、さらなる下方修正も覚悟しなければならないでしょう。
要注意:中野冷機(6411)
業務用の冷凍・冷蔵ショーケースの製造販売を行う中野冷機は、2022年5月10日に22年12月期第1四半期決算発表を延期すると公表しました。上海に拠点を置く連結子会社(上海海立中野冷機有限公司)の決算作業が、ロックダウンの影響で遅れていることが原因のようです。
同社の中国事業(海外事業)の売上高は2,774百万円で、全体の8.5%を占めています。仮に、決算作業以外の問題(粉飾、ロックダウンで業績悪化等)があった場合、同社に与える影響は小さくありません。今後の動向には注意が必要です。
【アメリカがパンデミックとどう闘ったかを描いたノンフィクション作品です。著者のマイケル・ルイスは映画化もされた「マネー・ボール」の原作者としても有名で、リーマン・ショックの内幕を暴いた「世紀の空売り」なども手掛けています。パンデミックの拡大を防げなかったアメリカの硬直的な組織体制と中国の強権的な防疫体制を頭の中で対比させながら読んでみるのも面白いと思います。ぜひ、ご一読ください!】
参考資料
引用元 | 記事タイトル |
JETRO | 「上海では操業再開の動きも3区分の動態管理が足かせに(中国)」 |
中国国家統計局(National Bureau of Statistics of China) | 「Total Retail Sales of Consumer Goods in the First Four Months of 2022」 |