- 学習塾業界全体の売上高と受講生数は、2020年のコロナショック時の数字を上回り、回復傾向にある。また、インターネット広告市場は相変わらずの活況ぶり。イトクロの事業環境は好転している。しかし、2022年10月期の業績をみると、イトクロの業績は低迷し、ユーザー数も伸び悩む結果に…。
- 競合他社をみると、サーバーエージェントやリクルートの子会社が次々と新サービスを立ち上げている。クライアントも自社で顧客を囲い込む動きを見せており、収益力低下の真の要因は競争激化にあるのかもしれない。
- イトクロの株価はまだまだ底値を探る展開が続く。
目次
事業環境は好転もイトクロの業績は悪化
事業環境は好転
経済産業省の統計データをみると、学習塾業界の業績は実は回復傾向にあります。業界全体の売上高と受講生数は、コロナ感染者数の増加にもかかわらず前年比100%を超え、2020年のコロナショック時の数字を上回っています。
また、2022年03月09日の電通の調査レポート「2021年日本の広告費インターネット広告媒体費詳細分析」をみると、コロナ禍でインターネット通信量が伸びたこともあり、インターネット広告市場が活況を呈していることが分かります。
教育サービスやネット広告から収益を得ているイトクロにとっては、厳しいながらも悪くない事業環境と言えるでしょう。
広告宣伝費を投じてもユーザー数は伸び悩み
しかし、事業環境が好転しているにも関わらず、イトクロの業績は厳しい数字となっています。業績悪化の原因を「顧客への送客数の担保、及び認知度向上・ブランド力強化を目的として 広告宣伝を強化」したためだと説明していますが、ユーザー数が伸び悩んでいるのでマーケティング費用の増加だけが原因ではなさそうです。
収益力低下の真の要因は競争激化か?
主要サービスに強力な競合が出現①~塾ナビとテラコヤプラス by Ameba~
イトクロの主要事業である教育メディアサービスには強力な競合が誕生しています。例えば、2020年9月16日にサービスを開始した「テラコヤプラス」は、塾ナビと同じく塾や予備校などの学習教室検索サービス、教育に関する記事、youtubeコンテンツを提供しています。
2022年1月末時点でサイト内の掲載校舎数は43,976件を数え、直接資料請求、体験申込などの各種無料お問い合わせができる契約校舎数は10,000件を突破するなど、サービス開始から短期間の間に目覚ましい成長を見せています。
今のところまだまだイトクロの塾ナビにはかないませんが、テラコヤプラスはサイバーエージェントのグループ会社であるCyberOwlが運営しており、イトクロとの資本力や営業力に大きな差があります。長期的にシェアを奪われるのは確実でしょう。
主要サービスに強力な競合が出現②~みんなの学校情報とスタディサプリ進路~
イトクロが力を入れている学校選びサイトの「みんなの学校情報」にも強力な競合が存在しています。例えば、リクルートマーケティングパートナーズが運営する「スタディサプリ進路」は、大学・短期大学・専門学校の進学情報を提供しています。
「スタディサプリ進路」の歴史は古く、1970年に“偏差値によらない進路選択”を掲げて創刊した「リクルート進学ブック」に端を発し、1990年には進学事典を創刊したり、1999年にはパソコン向けの「リクナビ進学」をオープンするなど、着実にサービスを成長させています。
そして、2016年にはオンライン学習サービスの「受験サプリ」や「英語サプリ」を「スタディサプリ」ブランドに統一するのに合わせて、「リクナビ進学」を「スタディサプリ進路」に名称変更しています。
このスタディサプリ進路も現段階ではみんなの学校情報に負けていますが、2,000校を超えるスタディサプリ導入学校との連携やスマートフォンアプリ化などの施策が進めば、やはり長期的な競争激化が予想されます。
広告クライアントが自社で顧客を囲い込む姿勢を示す…
収益力低下の要因は強力な競合他社の出現だけではありません。広告クライアントが自社で顧客を囲い込む姿勢を示している点も懸念材料の一つです。
例えば、早稲田アカデミーは生徒・保護者向けのポータルサイトを展開する動きを見せています。小学生から高校生まで幅広く教育サービスを提供する早稲田アカデミーが自社のサービスを通して顧客を囲い込むことで、中学受験、高校受験、大学受験といった各段階での塾探しの機会は減少してしまいます。
コロナ感染者数が増加し、WEBサービスが普及したことで、早稲田アカデミーのようにクライアントが自社ブランディングを強化する動きはますます加速すると考えられます。インターネット上で学習塾が直接顧客を獲得できるようになれば、塾ナビに広告を出稿する必要性は無くなります。もしかすると、イトクロの収益力は予想以上に低下するかもしれません。
イトクロの株価の回復はいつか?
5年週足チャートでは底値を探っている状態
イトクロの5年週足チャートを見ると、200週移動平均線(水色)、100週移動平均線(紫色)、52週移動平均線(オレンジ色)、25週移動平均線(黄色)のそれぞれに頭を押さえられて下落していることが分かります。
ここ最近は6週移動平均線(緑色)が右肩上がりに変わりつつありますが、まだまだ底値を探る状態となっています。
イトクロの株価の回復はいつか?
イトクロの株価の回復はいつになるのでしょうか?
個人的には、①コロナウイルスの収束がみえないこと、②業績が改善するのが少なくとも2023年10月期以降であること、③収益力の低下が一時的なものであることを確認するために23年10月期の2Q頃までは様子見をする投資家が多くいそうなこと、④機関投資家が空売りポジションを構築していること、⑤これまでの下落の出来高が多いこと、を理由にソーサーボトムを形成して反転上昇するのではないかと考えています。
前述の理由から短期的な上昇が見込みにくいこと、ソーサ―ボトムが上の画像のように長い年月をかけて底値を形成することを併せて考えると、株価上昇には最低でも1年程度の時間がかかるのではないかと思います。
【なお、画像はこちらの本から引用しました。価格は高いですが、テクニカル分析について丁寧に解説されているのでとても勉強になります。是非ご一読ください!】