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著名投資家の一問一答から投資の神髄を学ぶ「成長株投資の神」
- 成長株投資の神は、四人の著名投資家の投資手法を、構造化インタビューの形式を用いて明らかした本です。銘柄選択、ポジションサイズ、テクニカル分析の手法など、著名投資家それぞれの投資手法について、一問一答形式で一人ずつインタビューを行っています。
- この本にはチャートや解説図がほとんど出てきません。また、ファンダメンタル分析に関する記述が物足りません。しかしそれでも、ポジション管理の方法や損切方法など、学ぶことの方が多い本です。是非ご一読ください。
「成長株投資の神」のハイライト
質問4の2 テクニカル分析の観点から良い値動きであれば、相場が非常に強いときにはファンダメンタルズがさえない銘柄にも投資しますか?
ミネルヴィニ 多くの最良トレードとは、ファンダメンタルズ面でもテクニカル面も良く、市場全般が強気と、三拍子そろっているときに実現するものです。(略)
ライアン (略)私はファンダメンタルズもテクニカル面もよい銘柄を望みます。両方ともよければ、何か月あるいは何年もですら、長く素晴らしい値動きをする原動力になることもあります。(略)
ザンガー もちろん、私は買います!マークが指摘したように、最高の成長株の中には、良い決算発表が出るずっと前に上げるものもあるからです。(略)
リッチー二世 私はどちらの場合でも買います。私はファンダメンタルズが良い銘柄を望みますが、チャートが本当に良さそうであれば、ファンダメンタルズがさえなくても買います。(略) No.873-902
テクニカル分析とファンダメンタル分析のどちらを重視するかという質問に対し、ダン・ザンガーとマーク・リッチー二世はテクニカル分析を重視する一方、マーク・ミネルヴィニとデビッド・ライアンはテクニカルに関する条件だけでなく、ファンダメンタルズの条件も重視している点が興味深いです。
もっとも、ミネルヴィニとライアンもテクニカルの条件次第では投資することがあると述べています。例えば、「有望な新薬が出そう」というときや、FDA(米食品医薬品局)の承認が得られそうなとき、医薬品やバイオ銘柄はニュースが公表されるから、非常に力強い動きを示すことがあります。そうした場合は、いくらファンダメンタルズが悪くても投資に踏み切ることがあると述べています。
質問4の4 買う銘柄は上昇トレンドにあることを条件にしていると思います。上昇トレンドをどう定義しますか?
ミネルヴィニ (略)具体的に言うと、私は株価が下向きの二〇〇日移動平均線を下回っている銘柄は絶対に買いません(取引歴が二〇〇日あるとして)。
ライアン 私が買う銘柄の約九〇%は強い上昇トレンドにあるものです。私はある銘柄の五〇日移動平均線が二〇〇日移動平均線を上回っていて、両方とも上向きのものを上昇トレンドと定義します。(略)ときどきトレンドが転換する状況で買うこともあります。(略)株価の横ばいが少なくとも三~六ヵ月続いた後に上げ始めるものです。(略)
ザンガー (略)私にとって上昇トレンドにある銘柄とは、階段状に上げる銘柄であり、安値も高値も切り上げながら、上昇途上で値幅が狭いしっかりしたベースを形成する銘柄です。
リッチー二世 (略)株価が二〇〇日、一五〇日、五〇日移動平均線を上回っている長期上昇トレンドでなければ、私は買おうとは思いません。 No.920-942
上昇トレンドの定義に関しては、ザンガーを除く三名が二〇〇日移動平均線を基準にしています。二〇〇日移動平均線は、ほぼ1年間の営業日(休日、祝日、年始年末の休みを除いた日)に等しいので、有名投資家の多くが年間の平均株価を上回っているかという点を意識していることが分かります。
ザンガーは、上昇トレンドを「安値も高値も切り上げながら株価が上昇していること」と、教科書通りに定義づけています。逆ヘッド・アンド・ショルダーズの形から上振れた銘柄を買っていると述べていることから、安値・高値の切り上げをみて直ちに投資するのではなく、チャートのパターン認識と組み合わせて投資判断を行っているようです。
質問4の6 ある銘柄を買うときに、テクニカル面で最も重視するものは何ですか?
ミネルヴィニ 市場全般に比べたRSと、同業他社の銘柄と比べたRSに加えて、株価とでき高の動きを見ます。(略)
ライアン その銘柄の株価の変動パターンと出来高が私にとって最も重要な指標です。(略)
ザンガー 最も重要な指標は、市場全般が安値も高値も切り上げている上昇トレンドであることで、私が買いたいと思っている銘柄についても同じことが言えます。(略)
リッチー二世 テクニカルのいわゆる指標は使いません。主に株価と出来高だけです。(略) No.962-975
ほぼ全員が「株価と出来高だけを重視してみている」ということが意外に思いました。特に、ミネルヴィニは市場全般と比較したレラティブ・ストレングス(Relative Strength)と同業他社と比較したレラティブ・ストレングスを用いるものの、最終的には株価と出来高をみて判断すると述べています。
ライアンもストキャスティクスやMACDといったインジケーターをときどきは見るものの、基本的には株価と出来高を見て投資判断を行っています。様々なインジケーターを使うと情報量だけが増えてしまうため、株価と出来高だけを重視したシンプルな判断をルールにしているようです。
質問5の5 株価は何十年も前と同じファンダメンタルズの力で動いていると信じていますか?
ミネルヴィニ (略)売上高の成長によって利益が伸びているときに、株価は大きく上昇するのです。これまで常にそうでしたし、今後もそれは変わりません。
ライアン 信じています。大切なのは増益か増益予想です。(略)
ザンガー 金利やFRB(連邦準備制度理事会)による流動性供給が変わると株価が動くように、今でも利益の変動で株価は動きます。(略)
リッチー二世 (略)株価は短期的には実態に基づいて動くとは思いません。しかし、長期的に株価が大きく上げるとしたら、その力は結局はファンダメンタルズにあると思います。利益と売上高が伸び続けなければ、株価の大幅上昇も続かないのです。 No.1246-1258
ザンガーは、先の質問ではテクニカル面で条件が整えば投資に踏み切ると述べていました。しかし、ファンダメンタルの裏付けも当然ながら重視しています。特に、利益の増加に注目しており、前年同期比の増益はもちろん前四半期比でも20%~30%の増益を求めています。
これは、他の投資家も同様です。リッチー二世も、株価は短期的にはズレが生じるものの、長期的にはファンダメンタルに基づいた株価に収斂するため、投資先の売上高と利益の大幅な伸びが必要だと述べています。
質問7の6 仕掛けのポイントをどう定義しますか?
ミネルヴィニ 私はリバモアが最小抵抗線と呼んだ領域が形成されているか探しています。それは取引レンジで、供給が枯れるまで熟したところです。(略)
ライアン 私には二つの仕掛けポイントがあります。その銘柄が高値近くにあるときと、押したときです。(略)
ザンガー 通常は新高値で出来高が急増しているところが、私にとって最高の仕掛けポイントです。(略) No.1603-1616
リッチー二世 (略)それは五十二週高値から五%以内であり、ときどきは短期で押した水準です。
仕掛けのポイントはミネルヴィニ以外、新高値ないしは新高値近くの高値でエントリーすると述べています。高値圏でブレークアウトして新高値をつけた場合、それまでに投資した投資家はすべて含み益になるため、値動きが軽くなります。ライアンなどは、こうした新高値へのブレイクアウトを利用して利益をあげています。
一方、ミネルヴィニは新高値にこだわらず、レンジを形成しつつ、出来高が細り供給が枯れた銘柄に投資しています。供給量が減った銘柄に大きな需要が生じれば、当然需要超過となって価格が急騰します。ミネルヴィニは新高値にこだわってはいませんが、需給を見極めて投資を行っている点で他の投資家と共通しています。
「成長株投資の神」のおすすめポイント
成長株投資の神は、四人の著名投資家の投資手法を、構造化インタビューの形式を用いて明らかした本です。銘柄選択、ポジションサイズ、テクニカル分析の手法など、著名投資家それぞれの投資手法について一問一答形式で一人ずつインタビューを行っています。
ハイライトをみればわかるように、それぞれの回答には多少の違いがありますが、共通点も多くみられます。成功を収めた四人の投資家の公約数を知ることで、株式投資の普遍的なトレード手法を学ぶことができます。
なお、この本にはチャートや解説図がほとんど出てきません。また、ファンダメンタル分析に関する記述もほとんどないので、物足りなさを感じます。しかしそれでも、ポジション管理の方法や損切方法など、著名な投資家が実践している方法を学ぶことができます。良書なので是非ご一読ください。
「成長株投資の神」の著者
マーク・ミネルヴィニ
ミネルヴィニはベストセラーになった、「ミネルヴィニの成長株投資法―高い扇動株を買い、より高値で売り抜けろ」の著者です。わずか数千ドルで取引をはじめ、資金を数百万ドルに増やすことに成功しています。リターンは五年連続で年平均二二〇%のリターンを達成し、その間マイナスになったのは一四半期だけでした。
また、USインヴェスティング・チャンピオンシップに出場し、現物株の買いだけで、155%のリターンを達成し、優勝しました。現在、ミネルヴィニはミネルヴィニ・プライベート・アクセスというサービスを提供し、一般投資家に自身の投資法を教えています。
デビット・ライアン
ライアンはウィリアム・J・オニールの弟子で、オニール社に就職後、最年少でヴァイス・プレジデントに抜擢され、機関投資家向けの資金管理と銘柄選択の責任者になりました。退職後は、投資信託の運用を五年、自身が設立したラスティック・パートナーズでの運用を一五年間行い、好成績をあげています。
ダン・ザンガー
ザンガーは株式サイトのチーフテクニカルアナリストであり、ザンガーリポートというニュースレターの著者です。彼は一九九〇年代後半にわずか十八か月で投資資金一万七七五ドルを一八〇〇万ドルに増やすことに成功しました。現在は多くのラジオ番組やテレビ番組に出演するだけでなく、バロンズやフォーブスといった経済紙に寄稿しています。
マーク・リッチー二世
マーク・リッチー二世は、著名投資家マーク・リッチーの息子で、ミネルヴィニが主催した二〇一〇年度のトルプル・ディジット・チャレンジで優勝しました。現在は自身の口座を運用し、二〇一〇年以降の総リターンは一〇〇〇%を超えています。