中国大停電で世界経済混乱か?電力不足の要因とその将来は?

中国大停電で世界経済混乱か?電力不足の要因とその将来は?

中国大停電で世界経済混乱か?電力不足の要因とその将来は?

この記事のポイント
  • 電力不足が多発する中国。9月28日から北東部の黒龍江省、吉林省、遼寧省の3省で電力供給がカットされる事態に。
  • 電力不足の要因は、経済活動正常化による需要の急増と供給サイドの3つの問題にあります。
  • 今後、中国は原子量発電に力を入れるのではないかと考えています。仮に原子力発電所の新設が進み、順調に発電量が増えていけば、電力不足は自然と解決されるでしょう。

中国で再び大規模な停電が発生

中国国営メディアの報道によると、工業集積地の企業は電力需要を減らすためにエネルギー消費を制限するよう指示された。(中略)中国の国営紙「環球時報」によると、27日は北東部の3省が「予想外かつ前例のない」電力カットに見舞われた。同紙は28日、黒龍江省、吉林省、遼寧省の3省で電力供給が割り当て制となり、市民の日常生活や事業運営に多大な混乱が生じていると伝えた。CNN「中国で電力不足深刻化、突然の停電や操業制限も 世界供給網への影響懸念」2021年9月29日

中国は経済成長とともに電力需要が高まっており、毎年のように停電が発生しています。今年の6月にも中国南部で深刻な電力不足に陥いりましたが、今回は北東部の黒龍江省、吉林省、遼寧省の3省で電力供給がカットされる事態となっています。

この記事では常態化する中国の電力不足問題を中心に取り上げていきたいと思います。

2021年10月1日追記

「中国の電力制限地域」

「中国の電力制限地域」ブルームバーグの報道より(クリックで拡大)

2021年10月1日のブルームバーグの報道によると、電力制限を受けている地域が当初の報道よりも大きく拡大しているようです。

これまで中国は違法採掘や大気汚染を理由に石炭採掘を制限していましたが、緊急事態を理由に採掘枠を超えた石炭生産を認めるようです。石炭採掘の生産日数を無理やり減らしたりしていたので、生産量が急増するとは思えませんが、電量不足は緩和されそうです。

中国が電力難に陥った要因は?~急増する電力需要~

年々増加する電力需要

「中国の電力需要予測」

「中国の電力需要予測」自然エネルギー団体中国の電力システム改革より(クリックで拡大)

中国では経済成長に伴い、電力需要が年々高まっています。この傾向は今後も続くと考えられており、2025年までの間に年間4.4%の割合で電力需要が増えていくと予測されています。

なお、画像の需要予測を見ると分かるように、電力需要の59.8%を第2次産業(製造業)が占めています。仮に大規模な停電が続けば、中国の製造業に大きな痛手となり、経済成長率が鈍化する可能性があります。

2021年の停電も経済活動再開による需要の高まりが要因

国家能源局(NEA)は2021年4月14日、同年1~3月期の電力消費データを発表した。電力消費量は1兆9,219億kWh(うち3月は6,631億kW)で、2020年同期比で21.2%増(うち3月は19.4%増)となった。海外電力調査会「中国:2021年第1四半期の電力消費は前年比で大幅増加」2021年4月14日より

国家能源局が公表したデータによると、2021年の1~3月期の電力消費量は前年同期比で21.2%増加しています。中国は新型コロナウイルスのパンデミックをいち早く克服し、経済活動を再開させています。そのため、電力消費量が急増し、需給バランスが逼迫しています。

MEMO
国家能源局とは、中国のエネルギー政策を担う政府部局のことで、「国家エネルギー局」と訳されます。エネルギー関連の制度や法律を立案したり、関連企業の指導及び監督を行う、中国の主要な政府機関です。

中国が電力難に陥った要因は?~供給サイドの3つの課題~

経済活動の正常化によって電力需要が急激に高まり、今回の電力不足が引き起こされましたが、電力の供給サイドにも問題があります。そこで、以下では供給サイドの3つの問題について触れたいと思います。

①石炭火力発電の問題~石炭価格の高騰とオーストラリアへの経済制裁と同国産石炭の輸入制限~

中国は石炭の純輸入国

 
「中国石炭需給の推移」

「中国石炭需給の推移」JETRO「第3回石炭大国・中国のいま」より(クリックで拡大)

これまで中国は自国で生産した石炭を利用して自給自足していましたが、消費量の拡大に供給が追い付かず、2010年から石炭の純輸入国に転じています。

石炭消費量の増加が続いたものの、鉄鋼業をはじめとする過剰生産能力が問題になって生産能力調整政策が推進されたことから、2013年をピークに石炭消費量が減少しています。

こうした動きは2016年まで続いきましたが、大気汚染やエネルギー構造改革を理由に石炭の生産量も削減されたため、中国は相変わらず純輸入国のままとなっています。

電源の大部分は石炭火力発電に依存

「中国の発電電力量の構成」

「中国の発電電力量の構成」自然エネルギー財団資料より(クリックで拡大)

2015年の統計データによると中国は石炭消費量の45.2%を火力発電用に使用しています。実際、画像の発電電力量の構成を見ると、発電量の62%を石炭火力発電に依存していることが分かります。

火力発電用の石炭は燃焼効率の良い(炭質の良い)ものが使用されますが、中国で産出される石炭は炭質が悪いため火力発電の用途には向いていません。したがって、発電用途の石炭の多くは輸入石炭に依存しています。

経済活動再開による石炭価格の高騰

「石炭価格の推移」

「石炭価格の推移」世界経済のネタ帳より(クリックで拡大)

中国は火力発電用の石炭を輸入に頼っていますが、ここ最近石炭価格の高騰が続いています。

その理由は、①世界的に脱炭素社会の実現に向けた取り組みが加速し、石炭採掘などへの投融資が凍結され、産出量が制限されていること、②2020年の新型コロナウイルスのパンデミックによって石炭価格が下落し、減産を行ったこと、③ワクチンの普及による経済活動の再開で需要が急回復したこと、などが挙げられます。

こうした要因から石炭価格が上昇し、発電コストも急速に跳ね上がることになりました。

オーストラリアへの経済制裁と同国産石炭の輸入制限

「オーストラリアダーウィン港」

「オーストラリアダーウィン港」google mapより

2015年に、人民解放軍と深いつながりを持つとされる嵐橋集団が、オーストラリアの北部準州政府と5億600万豪ドルでダーウィン港を99年間賃借する契約(リース契約)を結びました。同港はアメリカ軍が駐留する安全保障上の要地で、通商の面でも重要な意味を持つ港でした。

この件をきっかけに、中国がオーストラリアの安全保障上の脅威となりうることが認識され、両国の外交関係に軋轢が生じました。

さらに、2017年6月に政治献金や賄賂を通じて中国の影響力を広げる(浸透工作)様子を描いたテレビ番組が放送されたこと、20年8月にオーストラリア国籍の中国系ジャーナリストが拘束されたことをきっかけに、外交上の問題にとどまらず、貿易面でも両国の関係は悪化することになりました。

中国は2020年5月にオーストラリア産ワインや大麦などに、212.1%、80.5%の追加関税を課すことを決定。同国産の石炭に関しても非公式に輸入停止の措置をとったとされ、2020年1~10月までのオーストラリアの石炭輸入量は2割ほど落ち込んでいます。

しかし、オーストラリア産の石炭は炭質が良く火力発電に利用していたため、自国の電力供給に悪影響を与える結果となりました。現在、代替手段としてインドネシアやカナダ産の石炭輸入量を増やして対応しているものの、発電効率が落ちたり、輸送費を含めた発電コストが上昇しているようです。

②電力小売価格の統制によって燃料費が転嫁できない問題

「中国の平均小売電力価格」

「中国の平均小売電力価格」自然エネルギー財団資料より(クリックで拡大)

中国は国有企業による独占状態を改革すべく、2015年から小売電力価格を自由化しています。これによって、小売価格は半年から1年単位で柔軟に価格設定できるようになり、燃料費の転嫁を含めて機動的な対応が可能になりました。

ただし、大企業や中小企業向けの電力料金を発電コストに比べて高く課し、住民や農業向けの電力料金を発電コストに比べて安く課す「交差補貼」と呼ばれる従来の制度を維持しているため、実質的に発電コストを回収しにくい構造となっています。

とりわけ、石炭価格が高騰を続けている今の環境下では、電力を発電すればするほど赤字が増える状態となっています。中国の電力不足問題の一端には、こうした電力小売価格の政府による統制が関係しています。

③2060年のカーボンニュートラルに向けた制約

「2025年の電源構成の予測」

「2025年の電源構成の予測」自然エネルギー財団資料より(クリックで拡大)

2020年9月22日の国連総会で習近平国家主席は、中国のCO2排出量について「2030年までにピークを迎え、2060年までに炭素中立(カーボンニュートラル)を目指す」と演説しました。

これを受けて、2020年11月3日に採択された第14次5カ年計画(2021~2025年)では、炭素排出量を2030年までにピークアウトさせるための行動計画の策定や電源構成・送電ルートの最適化、新エネ利用拡大などの方針が示されました。

この方針によって、CO2排出量の多い石炭火力発電所の新規建設が中止されたり、自然エネルギーに重点を置いた電源開発が進められています。

MEMO
石炭火力発電は太陽光発電に比べて約18倍、水力発電と比較して約88倍CO2排出量が多いとされています。また、二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)の排出量も多いことから大気汚染の原因と言われています。
「中国の風力発電の設備利用率と太陽光発電の設備利用率」

「中国の風力発電の設備利用率と太陽光発電の設備利用率」自然エネルギー財団資料より(クリックで拡大)

もっとも、自然エネルギーの発電設備がどれだけ新設されていても、実際の発電量にはあまり影響を与えていません。風力発電と太陽光発電の2019年の発電設備容量は20%に達していますが、両者が発電量に占める割合は8%に過ぎません。

これは、自然エネルギー発電の出力が安定せずに出力抑制を強いられていることや、送電網が整備されておらず地域間で需給ギャップが生じていることが原因です。こうした問題はすぐに解決できないので、今後も電力供給上の障害となる恐れがあります。

今後、中国は原子力発電大国に?

「中国の原子力発電設備の立地と基数」

「中国の原子力発電設備の立地と基数」原子力委員会参考資料より(クリックで拡大)

これまで見てきたように、中国の電力システムは石炭火力発電に依存しています。中央政府の政策としては2060年のカーボンニュートラル達成に向けて自然エネルギー発電を推進していますが、出力が安定せずに電源にはなりにくい状態です。

そこで、これから中国は原子力発電により一層力を入れるのではないかと考えています。中国は建国直後の1949年に中国原子力科学研究院という研究機関を発足させ、原子力の研究を進めます。その後、1972年に上海核工程研究院を設置し、秦山原子力発電所の設計を開始します。

秦山原子力発電所は1985年3月に着工、1994年5月から商業運転を開始しました。以降、中国は原子力発電所の建設を推し進め、2020年末時点の稼働基数は48基でアメリカやフランスに次ぐ世界3位、発電量は世界2位に登り詰めています。

原子力発電は安定して高出力を維持できます。また、電力需要の多い海岸部に建設できることから、送電網が未発達でも問題ありません。さらに、発電時のCO2排出量は火力発電の30分の1に過ぎないので、環境負荷も少ない発電源でもあります。

したがって、今後中国は原子力発電に力を入れるのではないかと考えています。仮に原子力発電所の建設ラッシュが進み、安定した発電量を確保できるようになれば、多発する電力不足問題が解決されるかもしれません。

参考資料

配信元 記事タイトル 配信日
CNN 「中国で電力不足深刻化、突然の停電や操業制限も 世界供給網への影響懸念」 2021年9月29日
自然エネルギー財団 「中国の電力システム改革」 2021年2月
JETRO 「第3回石炭大国・中国のいま」 2018年11月
原子力委員会資料 「中国の原子力の課題」 2019年1月22日
AFP(フランス通信社) 「中国の原子力発電、建設中の設備容量が世界一を維持」 2021年4月16日
ブルームバーグ 「中国指導部が鉱業各社に石炭フル生産命令、電力危機対応-関係者」 2021年10月1日

その他の資料はこちらの記事にまとめています

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