日鉄物産(9810):鉄鋼価格の高騰と中国の粗鋼減産政策の恩恵を受けて株価は上昇?|上方修正期待銘柄

日鉄物産 アイキャッチ

日鉄物産(9810):鉄鋼価格の高騰と中国の粗鋼減産政策の恩恵を受けて株価は上昇?|上方修正期待銘柄

この記事のポイント
  • 日鉄物産は日本製鐵の販売商社という位置づけなので、売上の多くを鉄鋼事業に依存しており、売上の85.2%、利益の74.2%を同事業が占めています。そのため、鉄鋼市況の影響を受けやすい企業と言えます。
  • 世界各国の大規模な経済対策とコロナワクチンの普及による経済活動の正常化を受け、鉄鋼価格は20年下期から反転しています。急速な需要拡大を受けて鉄鋼市況は現在も高止まり状態となっています。
  • 中国の粗鋼減産政策を受けて、鉄鋼の供給能力は今後も減少すると予測されます。したがって、鉄鋼価格は中長期的にも高水準で推移すると考えています。
  • 日鉄物産の過去5年の平均PERは7.7倍、平均PBRは0.69倍となっています。7月30日(終値4,680円)時点のPERが6.9倍、PBRが0.59倍であることを考えると、現在の株価は割安だと考えています。今期の決算が通期業績予想通りだと仮定しても、10%程度の株価の上昇が期待できます。
  • 目標株価の最低ラインとしてはファンダメンタル面でもテクニカル面でも5,300円前後が妥当です。

日鉄物産ってどういう企業?

日鉄物産セグメント情報 マネックス証券より

日鉄物産セグメント構成 マネックス証券より(クリックで拡大)

日鉄物産(9810)は日本製鐵の中核商社で鉄鋼、産機・インフラ、繊維(衣料)、食糧の輸出入と販売を行っています。2013年に日鉄商事と住金物産が経営統合して誕生したため、日本製鉄が株式の34.4%を、三井物産が株式の19.8%を保有しています。

日鉄物産は日本製鐵の販売商社という位置づけなので、売上の多くを鉄鋼事業に依存しており、売上の85.2%、利益の74.2%を同事業が占めています。そのため、鉄鋼市況の影響を受けやすい企業と言えます。

日鉄物産の通期業績推移

日鉄物産 通期業績推移

日鉄物産 通期業績推移 マネックス証券より

日鉄物産は2013年の住金物産との統合を機に収益力を大きく拡大させています。鉄鋼市況によって業績が大きく左右されますが、基本的に一株当たり利益(EPS)を560~720円程度稼ぎ出しています。

2020年と2021年は新型コロナウイルスの感染拡大によって鉄鋼市況が急速に悪化したため、大幅な減収減益になりました。特に、2021年のEPSは494円と直近5年で過去最低の数字となっています。

しかし、世界各国の大規模な経済対策とコロナワクチンの普及による経済活動の正常化を受け、鉄鋼価格は20年下期から反転しています。急速な需要拡大から鉄鋼市況は現在も高止まり状態となっています。

中国の粗鋼減産政策も過剰生産能力を削減する方向に動いていることから、こうした状況は今後も続き、日鉄物産の業績にプラスに働くのではないかと考えています。

日鉄物産の今後の業績は?

鉄鋼生産量・生産能力の削減によって鉄鋼市況は活況に

鉄鋼生産量と鉄鋼価格の推移

鉄鋼生産量と鉄鋼価格の推移 日本鉄鋼連盟 鉄鋼需給統計 普通鉄鋼需給統計より筆者作成

新型コロナウイルスの感染拡大によって、2020年の上期に世界各地でロックダウン(都市封鎖)が実施されました。その結果、世界経済が停滞して鉄鋼需要は大きく減少しました。この事態に対処するため、鉄鋼メーカー各社は減産と工場閉鎖による生産能力の削減を進めました。

しかし、世界的な財政支出の拡大やコロナワクチンの普及を受けて、鉄鋼需要が予想以上に急回復しました。そのため、メーカー各社は減産から一転し、2020年下期からは増産へと舵を切っています。

20年後半から増産に踏み切ったものの、需要の急激な高まりと生産能力の削減に伴う供給不足から、鉄鋼価格は急上昇しました。上のグラフは国内の普通鉄鋼の生産量と国内の鉄鋼価格を示したものですが、特に20年末から鉄鋼価格が高騰していることが分かります。

こうした鉄鋼価格の高騰は21年下期も継続しそうです。というのは、粗鋼生産量世界シェアの50%を占める中国が、国内産業を保護するために輸出関税を引き上げて海外への輸出を制限したからです。

詳細は次の章に譲りますが、中国では鉄鋼業の過剰生産能力の削減も進められています。今後も引き続き鉄鋼業の供給量が減少すると予想されるので、鉄鋼価格は少なくとも年内は高止まり状態になりそうです。

中国の粗鋼減産政策によって鉄鋼価格は中長期的にも高水準で推移

中国粗鋼生産量と世界生産量に占める割合

中国粗鋼生産量と世界生産量に占める割合 2018年通商白書より

WTOに加盟した2001年以降、中国は国内の鉄鋼企業の育成に努め、生産能力の拡充を図りました。その結果、2006年には中国の鉄鋼生産能力は国内の鉄鋼消費量を上回り、輸出超過国となりました。その後、2013年に国内消費量がピークアウトしたものの、過剰な生産能力が解消されずに過当競争が続いたため、2015年には上場鉄鋼メーカーの7割が営業赤字に陥りました。

こうした過当競争を解決するため、中国政府は2016年2月に5年間で1億~1億5000万トンの生産設備を削減するという目標を設定し、過剰生産能力の解消に動き出しました。2016年から2018年の段階で1.55億トンの生産能力を達成し、生産能力は10.27億トンに減少したと公表しましたが、実際には統計外の生産設備が存在しており、依然として過剰な生産能力が残されています。

中国政府は2021年5月に鉄鋼業生産能力置換実施弁法を改正しました。そこで、国家目標である2060年のカーボンニュートラル達成に向けて、鉄鋼業の過剰生産能力をさらに引き下げることを目標に掲げています。

新たに改選された鉄鋼業生産能力置換実施弁法では高炉を新設する場合、25~50%の生産能力が削減されることになります。したがって、中国の鉄鋼の供給能力は今後も減少し、鉄鋼価格は中長期的にも高水準で推移すると考えています。

7月30日に神鋼商事は業績予想を上方修正し、株価はストップ高に

神鋼商事2022年3月期通期業績予想-上方修正

神鋼商事2022年3月期通期業績予想 上方修正 神鋼商事IR資料より

7月30日に神鋼商事は2022年3月期第1四半期の決算発表を行いました。好調な鉄鋼市況を追い風に第1四半期は好業績を達成し、同時に通期業績予想の上方修正も発表しています。会計基準の変更で通期の売上高は減少するものの、経常利益は前期比79.4%増の7,300百万円へと大幅な上方修正を行っています。

日鉄物産2022年3月期通期業績予想

日鉄物産2022年3月期通期業績予想 日鉄物産決算短信より

2022年3月期の日鉄物産の通期業績予想は、経常利益が前期比28.5%増の33,000百万円となっています。神鋼商事の通期業績予想が前期比79.4%増となっていることから、日鉄物産の業績予想は保守的で12,000百万円程度の上方修正が見込めます

鉄鋼市況が活況を呈していること、中国の減産政策によって中長期的に鉄鋼価格が高水準で推移しそうなことを踏まえると、日鉄物産の今後の業績は十分期待ができると思います。

日鉄物産の目標株価は?

日鉄物産5年平均PERとPBRの推移

日鉄物産5年平均PERとPBRの推移 マネックス証券より

日鉄物産の過去5年の平均PERは7.7倍、平均PBRは0.69倍となっています。7月30日(終値4,680円)時点のPERが6.9倍、PBRが0.59倍であることを考えると、現在の株価は割安だと考えています。今期の決算が通期業績予想通りだと仮定しても、10%程度の株価の上昇が期待できます。

理論株価はPERベースで5,251円、PBRベースで5,466円となっていますが、2022年3月期の利益予想が上方修正されれば、理論株価はさらに高くなります。また、2022年末時点の一株当たり純資産額を用いて計算すれば、PBRベースの理論株価も上記より高い数字になります。

したがって、7月30日の終値4,680円はまだまだ割安であると思います。目標株価の最低ラインとしては5,300円前後が妥当です。8月2日の決算次第では6,000円台も視野に入るでしょう。

【PERベースの理論株価】

$$2022年3月期の一株当たり純利益682.04円×平均PER7.7倍=5,251.70円$$

【PBRベースの理論株価】

$$2021年3月期末の一株当たり純資産額7922.37円×平均PBR0.69倍=5,466.43円$$

日鉄物産のテクニカル分析

日鉄物産5年週足チャート

日鉄物産5年週足チャート 楽天証券より

日鉄物産の5年週足チャートを見ると、一度200週移動平均線に抑えられて下落した後、2回目のチャレンジを試していることが分かります。

鉄鋼市況が良好であり、同業の神鋼商事が通期業績予想を上方修正したことを考慮すると、200週移動平均線を突破し、5,300円付近の青い抵抗線まで株価は上昇すると思います。もし、想定通りに鉄鋼価格が高止まりして通期業績が上方修正されれば、青い支持線も超える可能性が高いです。

また、仮に今期の決算が冴えないものでも、鉄鋼生産能力は日本・中国共に削減されています。中長期的に見ても、鉄鋼価格は高い水準で推移するので、今後の業績は十分期待できます。短期的にも、中長期的に見ても投資妙味はあると言えます。

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